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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

鎮静(2)モルヒネでも取り除けない最終末期の苦痛に

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 私が初めて緩和ケアを行ったのは60代女性の肺がんの患者さんでした。

 片方の肺が胸水でいっぱいになってしまうくらい悪い状態だったのですが、ステロイドが劇的に効いて、なんと胸水が減るまでに至り、私を驚かせるに十分以上の緩和ケアの力でした。

 しかし肺がんは徐々に進行します。次第に呼吸困難(息苦しさ)は強くなっていきました。

 呼吸困難に対しては、モルヒネがある程度効きます。

 しかし、これまで同様な事例に、教えられた通りモルヒネを使用しても、なかなか肺がんの患者さんの「余命数日の」息苦しさを取り除くのは難しいことが多かったのです。

 この例でも、いざ余命数日と推測される状態に至った際の呼吸困難は激しく、今までの私では患者さんの苦痛を取り除けない悔しさを覚えることになるだろうと予想されました。

 しかしその時、私は新しい知識を有していました。

 それは「鎮静」の知識でした。

 鎮静とは何か。鎮静とは「苦痛緩和を目的として患者さんの意識を低下させる薬物を投与すること」を言います。その薬剤はモルヒネなどの医療用麻薬ではなく、鎮静薬です。 鎮静薬とは、例えば胃カメラを眠ってする際に使用されるものと同じものです。睡眠薬と同じ成分の点滴薬とも言えます。

 そして、ここがとても重要なところですが、この鎮静は「うとうとと眠れるようにするもの」であり、命を縮める可能性は極めて低いと言われていますし、実際にそうです。この説明はしばしば誤って、「呼吸が抑制されて死に至る可能性が十分あります」と誇張されて行われることが多く、誤解を広めてしまっています。残念なことです。

 また、いまだによく間違えられることとして、モルヒネは鎮静目的では使いません。実際に日本緩和医療学会が出している鎮静のガイドラインでも推奨されない由が明記されています。

 なぜか。それはモルヒネがしばしば一般の方に「ボーっとする」「わけをわからなくさせる」と誤解されているのとは異なって、本来「意識を低下させる作用は強くない」からです。従ってモルヒネなどの医療用麻薬を使って鎮静するのは不十分であり、だから「推奨されない」となっているのです。

 ただ緩和ケアは本来、「意識を一切低下させずに苦痛を取り除くこと」を目指すものです。

 ですから、もちろん、鎮静は必要なければ行う必要は全くありません。

 一方で余命が数日の際は、それまでの期間の苦痛とは異なり、特に身の置き所のないだるさや高度の呼吸困難、強いせん妄などを代表として、なかなか他の症状緩和の薬剤が効かないことも少なくありません。鎮静が症状緩和に必要ながんの末期の患者さんは少なからずいらっしゃるのが事実です。従って鎮静ができる医療機関、医師にかかっていないと、最期に苦しむ可能性があります。

 私はその時初めて、その病院で、がん末期の患者さんの症状緩和のために鎮静を行いました。

 その結果は……次回に続きます。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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