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いのちに優しく いまづ医師漢方ブログ

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がんの緩和ケアに漢方の力

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 「これでいいのだ!」をメインテーマに、日本緩和医療学会学術大会が、19日から21日の予定で神戸で開催されています。「これでいいのだ!」とは、患者さんや家族がその一瞬、その日、その月、その年をこれでよかったと思える、その人らしい生活を支えることが緩和ケアだ、という思いが込められたものです。

 最近、緩和ケアという言葉は、広く使われるようになりました。昔は、がんの末期を支える治療法を意味していました。最近では、患者さんの精神的ケアと肉体的ケアばかりでなく、家族のケアを行うことも含むようになりました。そのため、医師、歯科医師、薬剤師、看護師などの医療従事者ばかりでなく、さまざまな人の力が必要になっています。医療だけでは解決ができない、介護や福祉にまで関係するからです。緩和ケアとは、がん患者の生活を支える取り組みだと言っても良いでしょう。

体の痛みと心の痛み

 2006年6月に、がん対策基本法が成立し、日本のがん治療は大きく方向転換しました。それまでのがん治療は、三大治療法(外科治療、薬物治療、放射線治療)という攻めの治療が主役でした。ここに守りの治療である緩和ケアが、加わったのです(2012年12月14日「守りを固めるためには、漢方医学」もご覧ください)。

 まず最初に取り組まれたのが、緩和ケアの痛みに対する治療(ペインコントロール)と精神的な対応(メンタルケア)でした。

 当時は、医療用麻薬の使い方を十分に理解していない医師がほとんどで、知らず知らずのうちに「痛みは我慢すること」という治療方針になることが、当たり前のような状況でした。本当に、悲しいことです。

 そこで、ペインコントロールを得意とする麻酔科医にスポットライトが当たりました。それまで手術室で仕事をしていた麻酔科医が、病棟のがん患者さんの元へ出かけるようになりました。痛みがあるがん患者さんへ医療用麻薬を積極的に使うようになり、おかげで、痛みの苦しみから多くのがん患者さんが解放されるようになりました。

 ペインコントロールには、漢方薬が活躍しています。例えば、医療用麻薬で取り切れない痛みに、「附子(ぶし)」を加えると、薄皮をはぐように楽になります。医療用麻薬の副作用である便秘には、「大建中湯(だいけんちゅうとう)」を併用するとスムーズな排便ができるようになります。

 がんと診断された時点から苦痛は始まります。自分の将来、家族の未来など精神的な負担は大きくなるばかりです。そこで、メンタルケアのため、精神科医が積極的にがん患者さんに関わるようになりました。それまでは、口にすることができなかった心の悩みを医師に相談することができるようになりました。

 メンタルケアにも、漢方薬が使われています。不安でいつも何かのどに詰まっているような症状には、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を使うとスーッとのどの通りが良くなります。がんに対する不安が強いときは、加味帰脾湯(かみきひとう)です。加味帰脾湯は、貧血、不眠症などにも用います。

チームのメンバーに漢方医も

 緩和ケアは、麻酔科医、精神科医ばかりでなく、様々な領域の医療従事者が集まってチームで行うものです。チームのメンバーが、問題を解決するために、いろいろなアイデアを出し合いながら、より良い医療を提供できるよう努力します。このチーム医療に、漢方医学も加わり、少しでもがん患者さんのためになれば、と思います。古くて新しい漢方医学は、かならずがん患者さんのために役立つはずです。

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いまづ医師の漢方ブログ_顔120

今津嘉宏(いまづ よしひろ)

芝大門いまづクリニック(東京都港区)院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。

日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

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3件 のコメント

病態と治療の理解 術前後の変化 食欲

元放射線科医 寺田次郎 六甲学院56期

僕も二日目だけ参加しました。ポスターだけで手一杯でしたが、チーム医療から何から幅広い分野があるのがわかりました。ちなみに、IVRの先進技術として...

僕も二日目だけ参加しました。
ポスターだけで手一杯でしたが、チーム医療から何から幅広い分野があるのがわかりました。

ちなみに、IVRの先進技術として、患部の近所にカテーテルを送り込んで、局所の麻酔濃度を上げ、全身の投薬量を減らしてしまうものも以前IVR学会で発表されてました。
毒性を持つ薬を効率的に作用させられれば、メリットの方が大きくなりますね。


ところで、緩和医療って言うと、がんの終末期医療と近い印象がありますが、必ずしもそうではないですね。
学会場には、神経難病や循環器のものもありましたし、産婦人科の無痛(和痛)分娩も広義では含まれるかもしれません。

どうやって、重病の与えるショックから心身の影響を和らげるか?

医療の施行者サイドだけではなく、受給者サイドでもできる工夫はあります。

患者さんのADL(活動度)低下は、患部そのものの問題とそれにまつわる全身機能の低下のファクターに分けられます。
手術適応でも全身状態の評価が大事になります。
患部を切ってよくなる部分もあれば、逆に悪くなる部分もありますね。
難しいですが、なんとなくでもわかっていれば、本人も家族も受け止めやすいでしょうか?


先日がん術後の患者さんに手足のしびれを訴えられました。
話を聞いてみると、術後体重が戻ってないそうです。
切った臓器やその部位や量にもよりますが、栄養状態が変わったり、ホルモン内分泌量が変われば、色んな副作用はあり得ます。

痛みや気分によっても食欲も変わるでしょうか?

健診なので、それ以上のことまでは聞きませんでしたが、「術後に食欲がわかないことに対する対応も緩和医療かな?」とふと頭をよぎりました。
案外、漢方が効くのかもしれないですね?

医療は魔法ではなく科学ですが、未知の部分は魔法のようなものですものね。

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最期まで泣き言一つ言わなかったが・・

めざめたじいさん

 「お義父さんの痛みは尋常ではないはずですよ・・」。腎臓治療にかけては世界的な名医だった〇久保医師が、義母に話していた。 入院して3回目の夏場を...

 「お義父さんの痛みは尋常ではないはずですよ・・」。腎臓治療にかけては世界的な名医だった〇久保医師が、義母に話していた。
 入院して3回目の夏場を乗り越えた義父、週2回だった人工透析が3回に増えた。次の間付きの1等病室が、まだ〇〇JA理事長室になっていた。

 若い時肺結果核になり、看病していた前妻に移り、前妻は看病の途中で他界した。家内が19歳の寒中だった。親戚の勧めで、まだ喪が明けないときに新しい義母になる人が家に入った。

 家内は、父親が痛いとか苦痛とか言ったことがないと言う。痛みには強い人だったのかも知れない。

 その義父が「先生、そろそろ透析は止めましょう」と言い出した。人工透析を止めれば、1週間程度しか生きられないことを、誰もが知っていた。〇久保医師は「そう弱気にならないで・・」と言ったが、既に手の打ちようがなかった。いつものように看護婦が車椅子で義父を透析に連れて行こうとしたが、「もう行かない、3時間が辛いから」と、始めて苦痛を訴えたのだ。

 ペインコントロールは患者のためにあるが、看病していた義母、娘たちの心の痛みはコントロールできなかった。「おじちゃん、親戚を呼ぶ手配をしておくれ」と、義母から言われ、病室から解放された。しかし、私が外出している間に、病室でどんな苦しみがあったのか、想像がつく。私に用事を言いつけた義母の心遣いが、かえって私の心の痛みとなった。

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緩和ケアが消し去る苦しみ

埼玉のシニア

胃がんで無くした親父を思い出している。55年も前だが、隣町の大手病院の一室で親父は黒田節を歌って逝ってしまったが、腹に水がたまり余命いくばくもな...

胃がんで無くした親父を思い出している。55年も前だが、隣町の大手病院の一室で親父は黒田節を歌って逝ってしまったが、腹に水がたまり余命いくばくもない父のそばで、母は歯を食いしばり涙を見せず付き添っていた。

当時の痛み緩和はモルヒネだったのか、それもあまりきかなくなって、眠剤で眠っていたように思う。

口の聞けない妻に、最後は、どんな、緩和策があるのだろう。思いたくもないが考えなければ。食事も段々細くゆっくりで有るが、生きながらえてにこっと笑う妻を見たい。今母の気持ちが解る。

緩和ケアが患者の痛みや苦しみを少しでも消せるなら、どの薬よりそれが一番だろう。

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