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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

鎮静(1)死の苦しみに対し最期に出来ること

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 皆さんは鎮静を知っていますか?

 緩和ケアのことはだいぶ認知度が増えて来ましたから、ご存じの方も多いでしょう。

 しかし鎮静のことまでは皆さんはなかなかご存じないかもしれません。

 今回からは緩和ケアにおいて重要な鎮静の話をします。


壮絶だった最期の1週間

 15年ほど前、研修医だった私は指導医の先生と70代男性の肝臓がんの末期の患者さんを受け持ちました。

 彼の最期の1週間は壮絶でした。

 せん妄状態(意識が変化し、興奮などする状態)となり、声を上げ、手や足をベッド柵に打ちつけ、身体にはどんどん暗赤色のあざが増えていきました。

 奥さんが声をかけます。しかし彼の目は宙をさまよい、また「あー」と叫び声をあげては手や足を振り回し、そして体をねじるように動かしては苦しそうな表情を浮かべるのでした。

 この方の場合はとりわけ顕著な例で、誰もがそうなるわけではありません。

 しかし死期が迫ると、身の置き所のないだるさや、時にはせん妄状態に陥ることは決して珍しくはありません。そして苦しまれます。

 その死を前にした1週間がとりわけ苦しかったのが彼でした。


薬も効果なく…

 奥さんは悲しい表情で言いました。

 「先生、もうできることはないんですよね?」

 指導医とも十分相談しましたが、彼にはもうできることはありませんでした。いや、実際には、もうできることはないと捉えていた、というのが正確な表現でしょう。

 その奥さんが見つめる先には「うー」と苦しそうな声をあげて身体を間断なく動かす彼の姿があります。

 「すみません。もうできることはありません」

 せん妄の際にしばしば使用される興奮を抑える効果がある薬剤(抗精神病薬)は使っていました。しかし全く効果はありませんでした。

 「そうですか…」

 奥さんはため息をつきます。

 「わかってはいるけれども、つらいものですね…。こんなに苦しむなんて…。先生、人の最期って本当につらいものなんですね」

 「そうですね。皆さんがそうというわけではないのですが…」

 「では夫は不幸ですね」

 不幸……。私が奥さんをみると、奥さんは涙をためた目で言いました。

 「正直、早く逝ってほしいと願います。夫の尊厳のためにです」

 重い話です。

 そして今もなお、「悔恨」とともに浮かんで来る光景でもあります。

 そんなある日転機が訪れました。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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