こころ元気塾
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授業に認知行動療法 ストレス対処の力育む
人間関係、勉強、部活で悩み…
親や友人との人間関係や勉強、部活の悩み――。そんな思春期のストレスに対処できる心を育てようと、医療現場で用いられている「認知行動療法」の考え方を取り入れた教育が、学校現場に広がりつつある。
5月、専修大付属高校(東京都杉並区)の教室。国語科教諭の平沢千秋さんは、友人関係でよくありそうな事例を黒板に示した。
<出来事>春子は夏子と遊びたいと思って携帯に電話した。数回かけても出ない。返信もなかった。
<考え>夏子に何か悪いことをしたかな。
<気分>落ち込んだ。悲しかった。
<行動>宿題が手につかなくなった。
これは、認知行動療法の考え方を取り入れた「こころのスキルアップ教育」の一コマ。認知行動療法は、うつ病や不安障害などの治療に使われる心理療法で、カウンセリングなどを通じ、過剰なストレスを招く考え方や行動の癖を修正する。
平沢さんは、3年生20人にこう切り出した。
「春子さんは、ほかの考えはできなかったかな」
五つの班に分かれた生徒たちはじっくり話し合った。「忙しい用事があったのかも」「携帯を忘れて出かけていたかもしれない」「寝ていたのかも」
平沢さんは、そう考えられれば、気分はどうなるのか尋ねた。多くの生徒は「仕方がないと思える」「気持ちは落ち込まなくなる」と口にした。
授業に参加した若佐南奈さん(18)は無料通話アプリ「LINE(ライン)」で友人にメッセージを送ったのに返事がないと「嫌われたのでは」と不安になることが多いという。若佐さんは「今後はいたずらにネガティブにならなくてすむかも」とうれしそうだった。
平沢さんは「気持ちや行動は、その時に頭に浮かんだ考えに影響される。それを学べば、困難な場面に遭遇しても対処できる心のスキルが身に付く」と話す。
この授業は、教師やカウンセラーなどでつくる「認知行動療法教育研究会」が2012年から普及に取り組んでいる。平沢さんもメンバーの一人だ。
認知行動療法の第一人者で、国立精神・神経医療研究センターの大野裕さんの全面的な協力を得て指導案ができた。大野さんは「ストレスに強くなるだけでなく、他の人の気持ちを思いやる力もつく。子どもたちの心を育むことにつながる取り組み」と話す。
神奈川県大和市立引地台中学校は今年度から、すべての生徒が道徳の時間に計10コマの授業を受ける。
校長の篠原正敏さん(59)によると、核家族化や近所付き合いが減ったことなどで多様な考えに触れる機会が少ないことから、考え方の狭い子どもが増えているという。篠原さんは「人の心を読めず、LINEや携帯電話を巡るトラブルになることは少なくない。今の子どもたちには必要な教育ではないか」と話している。(加納昭彦)
認知行動療法の考え方を取り入れた授業 対象は小学生から大学生。これまでに全国の十数校で行われた。同療法の理論や授業案などを紹介する勉強会は22日に福岡市、7月21日に名古屋市で行われる。いずれも午前10時~午後5時。教育関係者が対象で無料。問い合わせは認知行動療法教育研究会(apply@cbt‐education.org)。
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