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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

教えてほしい…免疫・食事療法の被害

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 これまで私たちはしばしば「自然」という言葉にきつけられるという話をしました。

 免疫や食事という言葉も、「それらで自然に元気になる」「それら自然に備わっている生きる力を引き出す」という文脈でしばしば語られます。

 人の体に元々備わっている免疫は「自然」の力。食事で元気を出すのも「自然」の力。そう考えられやすいのかもしれません。

 しかし、私の経験から述べますと、「もう抗がん剤などの治療をすることはできません」と伝えられるような状況の高度進行がんの患者さんにおいて、免疫治療や食事療法が効いて根治したという例はありません。

 特に余命が短い月単位となってから、それらの治療に専念するのは、厳しい言い方をするようですが、正直言って時間とお金の無駄のように感じます。

 そのような状況の際は、既に体力や気力が障害されており、できることが限られているからです。ゆえにそれらの治療に体力・気力が注がれたまま、やるべきことややりたいことを行うことができずに最期の時間が来てしまいます。

 また苦痛の緩和を積極的に行わねば、生活をするのにも大きな障害が出ることもあります。残念ながら免疫クリニックや、食事でがんを根治するとうたっているクリニックは、正しい緩和医療が得意ではないことも多いです。さらに入院施設がないところも多いですから、状態が悪化した際に最後まで診てくれることはほとんどありません。

 それでも免疫治療や食事治療に賭けるのならば、それで人生が終わってしまう覚悟のもとに臨むのが良いと思います。

 もちろん誰でも死にたくないと思います。ただ、それらの効かない治療に執心するあまりに、何もやりたいことができずに亡くなるのは悲しいことだと感じます。


幅利かせる「自然」幻想、高度進行がんでは期待できず

 残念ながら、自然に任せるのがもっとも苦痛が少ないという幻想と並んで、自然の力を引き出すことによって治るという幻想が幅を利かせています。ことに、がんの高度進行期において、それはほとんど期待できません。がん悪液質などが、栄養を十分取っても回復を妨げることについてはこれまでの連載でも記してきました。また、がんばかりではなく免疫細胞も「炎症性サイトカイン」を出して症状を悪化させることについても述べました。

 一般の多くの方は、人生において終末期の人をみることがほとんどないと思います。しかし中には、ネット等で高度進行がんの相談をしている方に、食事療法や免疫療法を、それを実際に体験したこともなく、あるいは確信犯的に勧めている人もいます。他の方の人生をどう捉えているのかと残念に思います。

 家族が「良くなっている」「治っている」と免疫・食事クリニックの医療者に言われ続けて亡くなった経験がある方も少なからずいるはずです。

 本当にこのようなことをお頼みするのは心苦しいのですが、私はもっと、家族が「がんが治る」と称する免疫クリニックや食事療法クリニックで治らなかった方が、ネットやその他で、その事実を発信していただきたいと思います。

 「もう言っても家族は帰って来ないから」

 「死後の様々なことをやることでそんな余裕がない」

 おそらくそれらの理由で、語ることが少ないのだと思います。しかし、それでまた不本意な最期を迎える方が新たに出てしまうのです。

 私は医師ですから、いくら中立の立場で訴えようとしても、「医師だから」という目で見られてしまうかもしれません。だからこそ、おおっぴらに語られることの少ない、これらの治療の「負の体験談」が必要なのです。

 それらのクリニックは概して親切ですから、患者さんやご家族がしばしば絡め取られてしまうことになります。良くなったと言われ続けたあげくの最期を、私も何例も診て来ました。

 どうか、まやかしを防ぐためにも、皆さんのお力を貸していただきたいと思います。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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