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最新医療~夕刊からだ面より

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便失禁に 仙骨神経刺激療法…装置植え込み神経に電気

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 本人の意思に反して便が漏れる便失禁。その新たな治療法として、体内に植え込んだ装置で骨盤内の神経を電気刺激する「仙骨神経刺激療法」が、4月から保険適用された。患者の体への負担が少なく、高い効果が期待されている。


従来の手術より体に負担少なく

 便失禁の原因で最も多いのは、加齢などで肛門の収縮力が弱まったケース。次いで、女性が出産時に肛門周囲の筋肉や神経を傷つける場合が多い。直腸がん手術の後遺症や脊髄損傷が原因になることもある。

 便失禁に悩む患者は国内で約500万人と推定されているが、恥ずかしさなどから実際に医療機関を受診する人はわずかだ。

 下痢が多いタイプなら、繊維質の多い野菜をとる、水分をとり過ぎない、など、食生活の改善が大切だ。高齢で便意を感じにくい人なら、定期的な排便習慣をつけることで良くなる場合がある。下痢を止めたり、便を硬くしたりする薬もよく使われる。尿失禁の治療法で、肛門を締めて周囲の筋肉を鍛える「骨盤底筋体操」も、便失禁に効果的だ。

 ほかにも、腸から便を洗い流す洗腸法や、肛門に栓をする方法もあるが、手間や不快感などから嫌がる人が多いという。

 肛門括約筋が断裂している場合、手術で修復する方法がある。ただ、逆に症状が悪化する恐れもある。本人が気にしなければ人工肛門も選択肢の一つだ。

 便失禁に詳しい指扇さしおうぎ病院(さいたま市西区)排便機能センター長の味村俊樹さんによると、これら従来の治療法で患者の約7割は改善できる。十分に改善しないか、受けたい治療がない残り3割の人は、新しく保険が適用された仙骨神経刺激療法が選択肢になる。

 仙骨は、骨盤の中央にある逆三角形の骨。仙骨神経は、仙骨で脊髄から分岐し、骨盤内を通って肛門や足の方向に延びる。

 仙骨神経刺激療法は、細長いリードを仙骨神経に沿って挿入し、先端部の電極で持続的に電気刺激する。電圧の強さは肛門の筋肉が収縮するほど強くはないため、なぜ便失禁が改善されるのか、仕組みは分かっていない。

 まず、電気を発生させる刺激装置を体内に植え込まず、外からリードだけを通して2週間の試験刺激を行う。効果が確認されれば、尻の上部を小さく切開し、縦4・4センチ、横5・1センチ、厚さ0・8センチの装置を植え込む。

 最初は電気刺激で少しピリピリしても、次第に慣れる。電圧の強さは患者がリモコンで調節でき、生活に支障がない範囲で最大限の強さになるよう設定する。外見上はほとんど分からず、普通に生活できるのが利点だ。使い方にもよるが、電池の寿命のため、3~5年程度で装置を交換する。

 この治療法はヨーロッパでは1994年に認可されており、便失禁の頻度が半分以下に減る治療成功率が約80%とされている。国内の治験で患者21人に実施したところ、半年で18人の治療に成功した。便失禁は全体平均で週15回から3回に減り、4人は完治した。

 味村さんは「便失禁のために生活に支障があり、薬や骨盤底筋体操などで効果がない人は、従来の手術より体の負担が少ない治療法なので試してみる価値はある」と話す。(藤田勝)

 
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