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先天性難聴 遺伝子で原因特定…早期治療合併症対策も

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 先天性難聴の原因を遺伝子レベルで特定する診断が注目されている。遺伝子診断で早期に難聴と分かれば、早くから治療を始めたり、どのような合併症が起きるのかなどの予測に役立てたりできるからだ。

 先天性難聴は、高熱や頭部外傷、妊娠中や出産時のトラブルで起きることもあるが、遺伝が原因の場合が最も多いことが明らかになってきた。難聴は外耳から中耳に原因がある「伝音難聴」と、内耳から聴神経・脳に原因がある「感音難聴」に分けられ、遺伝子が関わるのは感音難聴に多い。

 信州大耳鼻咽喉科教授の宇佐美真一さんによると、高度難聴児は1000人に1人生まれる。うち約半分で遺伝子が関係し、うち約7割が、遺伝情報を伝える「常染色体」劣性の遺伝方式だ。劣性遺伝は、難聴になる遺伝子変異を父、母の両方から受け継ぎ、変異が二つそろって初めて発症する。両親が難聴を発症していなくても、共に原因遺伝子変異を持つ「保因者」の場合、子どもが難聴となることがある。

 難聴の遺伝子は約100種類見つかっており、遺伝子の特徴や合併症の有無などが判明している。だが、変異の大半は外国で報告されたもので、日本人の遺伝子診断には直接役立たなかったという。

 そこで、信州大を中心に2000年頃から日本人の難聴の遺伝子に関する研究が始まった。国内の30を超える病院との共同研究で、5000例を超える難聴患者の遺伝子解析を行い、日本人難聴と関連の深い約20種類の遺伝子を特定した。

 12年には、同大が開発した検査法をもとに先天性難聴の遺伝子診断に保険が適用され、13遺伝子の46変異について全国の大学病院などで調べられるようになった。対象は原因不明の難聴がある患者。宇佐美さんによると、新生児聴覚検査で難聴と分かった子どもなど約1000人が診断を受けたという。

 遺伝子診断の利点は、難聴の原因が科学的に解明でき、より個人に合った「オーダーメイド治療」や合併症の推測が可能になる点だ。親が子どもの難聴を理解して治療に進める副次的な利点もある。

 宇佐美さんは「子どもが難聴と分かった親は、成長すれば聞こえるかもしれないと期待することもあるが、それで治療が遅れてしまうことにもなりかねません」と話す。特に、徐々に進行するタイプの難聴では、原因が分かっていれば先回りして治療への準備ができる。

 ただ、遺伝子診断は究極の個人情報を扱うので、事前の十分な説明が大切だ。結果を説明する際には、遺伝や難聴を患者が正しく理解できるよう、臨床遺伝専門医や耳鼻咽喉科専門医による遺伝カウンセリングが重要となる。

 診断の流れは、採血の後、抽出したDNAを遺伝子データベースに照らし合わせて確認する。保険適用以外の遺伝子についても、同大など全国40の病院による臨床研究でさらに詳しく調べられる。

 日本人の難聴遺伝子については、同大耳鼻咽喉科のホームページ(http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/chair/ent/deafgene.html)で詳しく解説している。(酒井麻里子)

 
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