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石井苗子の健康術

yomiDr.記事アーカイブ

今、科学者は瀬戸際に立たされている

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(なぜ説明より先に謝罪が必要なのか)

 「統計学が最強の学問である」(ダイヤモンド社)がヒットした西内啓さんと私は狭い院生室で一緒でした。最初に話しかけられた時、「僕、小学生のころ石井さんの『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』という映画をみて、あんな怖いお母さんいたら恐ろしいなと思っていたら、本人がここにいる」と言われて、いすから転げ落ちそうになったのを覚えています。

 偶然、私が2007年にダイヤモンド社から出版した「元気をこの手に取り戻すまで」の中で、院生たちの言葉が宇宙語のように理解できなかったと書いた箇所に引用した例文も、西内さんの論文発表内容でした。当然のことですが、彼に本をプレゼントしています。

 西内さんは院生時代から、「論文の世界」がいずれ一般的に注目される日が来ると考えていたのでしょう。その本にも『統計学はどのような議論や理屈も関係なく、一定数のデータさえあれば最適な回答が出せる。(中略)あらゆる学問、ビジネスへの影響力を強めている』とあり、おもわずうなってしまいました

 「一定のデータさえあれば適切な回答が出せる」統計学者も今、水面下で危険な立場に置かれています。STAP細胞の騒動以来、有名な科学者や、テレビで顔が知られるようになった指導者の謝罪や辞職まであり、その映像と発言が何度もテレビで繰り返されるのを見ながら、これほどまで騒がれるのは日本では珍しい出来事ではないかと、研究職の方々のターニングポイントを感じています。

 一連の騒動は、社会的ストレスになっていることは間違いありません。連日のように報道される事情を見て、本来明るいニュースだったはずなのにとストレスを感じる方も多いことでしょう。ストレスの中に、「社会的ストレス」と呼ばれるものがあって、自分とは直接関係してはいないけれど、自分の気持ちに強い影響を与え、気になって気分が暗くなる要因を指して言います。戦争や天災がその代表的なものですが、今回の場合は、早く治療方法が誕生するのを待っている人もいらっしゃるわけですから、余計なことばかり騒がれているというストレスを感じている方もいらっしゃるのでは、ないでしょうか。

 「学者にもコミュニケーションの能力が必要だ」と唱えた西内さんには先見の明があったと思います。人は正確な言葉より、情緒で言葉を受け取るもので、そこに分野の壁は存在しません。複雑で専門的でわからない分野なら、なおさら情緒で理解しようとする。科学者は発言に正確性を強く要求される反面、間違った受け取られ方をされた場合に相手側に訂正を求めます。反論には「根拠」と「根拠を元にした論破」を必要とされ、論破できない場合は、発言側に非はないとされるルールの世界で生きています。根拠がない発言で批判される時は、あくまでも相手の「個人的感想」として聞く訓練をしています。研究は自分で守るという理念が働いているからかもしれません。

 コミュニケーションの世界はそのようにはいきません。いかに科学者が「そうは言ってないはずです」と訂正を要求しても、「こちらにはそう言っているように聞こえました」で片付けられてしまう。つまり印象が大事だということです。落とし穴は、間違って受け止められたら「後の祭り」にあります。

 「研究不正行為は小保方氏ひとりがやった」がそれです。

 正確なのは、一連の研究では彼女ひとりということなのでしょうが、これが「自分は違法行為をしたことがない」と受け止められてしまったのかもしれません。何年も前の、しかも違う分野の研究論文の問題を指摘されての辞職です。

 私が議論していることに、なぜ説明より先に謝罪が必要なのかがあります。切り貼り問題も、STAP細胞の論文とは無関係となると、何が目的なのかと疑問に思う方も多いだろうはずなのに説明より先に謝罪で辞職では、科学者の正確性がますます疑われるだけではないかについての回答は、「まずは情に訴える方がマスコミ対策としては賢明だ」でした。西内さんの言うように、「データがどのような議論や理屈も関係なく最適な回答が出せる」のが学者の論文の功績なら、データの倫理性はどうなのかと徐々に論点がずれていく可能性があり、真実の説明や当時の研究者の置かれていた背景を説明しても、一般的に理解してもらうのは時間がかかり、逆に長い言い訳をしていると取られてしまう危険性もある。我々と同レベルで解釈ができないなら、何を信じるとか、誰を信じるといった方に報道の目を向けた方が賢いでしょう。

 私にはこれほどの上から目線の発言はないと感じましたが、トラブルが発生した時、その人が持つ現ポジションより、一般的好感度の方が高いと判断したときのマスコミ対応は謝罪を一番とする。これは日本のマスコミュニケーションの基本のようです。謝罪によってますます本人への追及が増した場合は、もともとその人に人気がなかった証拠ではないでしょうか。

 「深々と頭を下げられる姿にフラッシュがたかれる光景にうんざりしている人もいるが?」に対しては、「その辺はネット情報とかがカバーしてくれているのでは?」という回答ももらいました。

 私は指導教官から、「本当に科学的かどうかを議論できる科学者は少ない。まして、そのデータにどういう危険性があるかまで考えられる科学者はもっと少ない」と言われてきました。論文作成という狭い世界で「お作法」と呼ばれてきた長い間の常識がくつがえされようとしている今、過去の切り貼りの事実をどう説明しようが時間がかかるばかりなので、科学を前に進ませるためには謝罪した方が追及されないで済む。これが懸命な態度とされているうちは、閉ざされた世界のままなのでしょう。閉ざされた世界にストレスを感じるのは、研究職に限ったことではありません。欧米の世界より、日本はずっと閉鎖的な世界であることは間違いないと思います。閉鎖的な社会は住み心地がいいとされるのかされないのか、今、科学者は瀬戸際に立たされているのではないでしょうか。

 頭脳流出の危機が叫ばれていますが、なぜ日本に留まってくれないのかを考えなければ、この先ももっと流出していくだろうと私は思います。そのストレスもまた、社会的ストレスです。自分には無関係だと思わずに、情緒的な報道だけではないところにももっと一般的な関心を向けてほしいと思います。

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石井苗子さん顔87

石井苗子(いしい・みつこ)

誕生日: 1954年2月25日

出身地: 東京都

職業:女優・ヘルスケアカウンセラー

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5件 のコメント

研究組織や政策(政治)の改革を!

トンペイ

 理研が小保方さんの論文発表を不正と認定したことが正しいとすれば、小保方さんは加害者であると同時に被害者であると思います。どうして被害者でもある...

 理研が小保方さんの論文発表を不正と認定したことが正しいとすれば、小保方さんは加害者であると同時に被害者であると思います。どうして被害者でもあると思うのかというと、小保方さんを指導する機能と小保方さんの論文をチェック機能がほとんど働いていなかったからです。
 これから小保方さんの処分が議論されるみたいですが、論文の共著者や理研の責任は重大でしょう。最初は、「STAP細胞の研究は私(私達)が指導していたのです。」とマスコミに大々的に発表し、「不正」と言われれば「論文のことはほとんど知りませんでした。小保方さん個人がやったことです。」と言う個人や組織は、責任を自覚し相応の処分を受けるべきです。
 石井さんが言われていますように、今、科学者は瀬戸際に立たされていると思います。ただ、それは個人の問題だけでなく、組織や政策(政治)の問題でもあるので、それらが改革されることを強く望んでいます。

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有期契約の研究者が多い影響ではないか

じぞう

某新聞の記事に次のような内容が出ていました。記事によれば「理研は9割の職員が任期制であり、目に見える成果が出せなければ契約満了時に更新されない、...

某新聞の記事に次のような内容が出ていました。

記事によれば「理研は9割の職員が任期制であり、目に見える成果が出せなければ契約満了時に更新されない、つまり不安定な立場で研究をしている方が多い」とのこと。
この影響でいろいろな問題が出て来る。

1つ目として、わかりやすく目に見える成果を無理してでも出したくなる。じっくり腰を据えた研究は難しく、短期間で成果を出したい誘惑に駆られやすい。
2つ目として、終身雇用のチャンスがあれば理研を退職して別の転職先に転職したいと考える研究者も少なくない。
3つ目として研究者の入れ替わりが多くなり、研究内容も担当者から担当者へ引継ぎが増えてしまい、結果的に引継ぎが不十分なケースが発生しやすくなっている。
4つ目として、流出する研究者、短期で契約を切られる研究者が多いとなると、「どうせ短期契約だから」と研究内容や研究成果あるいは研究の引継ぎに対して誠実ではなくなる研究者も増えやすくなる。

小保方さんのケースでも、「問題の論文提出の2か月前に上司だった若山氏が山梨大学へ教授として招かれて転出し、急遽、副センター長の笹井氏が小保方さんの指導役となってしまった。転出と引越しのバタバタの中で笹井氏は若山氏から十分な引継ぎを受けることができず、その結果、論文を十分にチェックできないままに提出することになってしまった」のだという。

マスコミに取り上げられる期間が長期化すると、そうした理研の「体質上の問題点」が指摘される恐れがあったために幕引きを急いだようにも感じられますね。

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理研の利権

モコ

今回の理化学研究所(理研)のSTAP問題には利権が絡んでいるのではないかと。私はあまり報道を見ていないのですが、小保方さんが嘘を言っているように...

今回の理化学研究所(理研)のSTAP問題には利権が絡んでいるのではないかと。

私はあまり報道を見ていないのですが、小保方さんが嘘を言っているようには見えないのです。

この状況で、小保方さん(若い女性)が一人で必死になって『STAP細胞はあります』と繰り返すでしょうか。もし不正であれば、とっくに謝罪しているだろうと。

確かな検証もせずに小保方さんの不正が確定したと発表した時の理研の人達の表情には何か企んでいるような薄ら笑いさえ感じたのは私だけでしょうか。

私(小保方さん)が作って見せますから研究所を私に与えて下さいとどんなに懇願してもやらせてくれないそうです。
既に作って保管しているSTAP細胞が理研にあるそうです。

世紀の発見で利権が絡んでいるだけにこの騒動を利用して、小保方さんを解雇し論文を取り下げさせて、後で自分たちが発表しようと考えているのではないかと。

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