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茂木健一郎のILOVE脳

yomiDr.記事アーカイブ

分かっちゃいるけど痩せられねぇ~

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 さて、私の体重は、相変わらず一進一退しているようで、今量ったら、82.3キロであった。

 増えてもいないけれども、減ってもいない。

 要するに、横ばいである。


 なぜ、体重が劇的に減らないのか。

 この理由は実はわかっていて、この連載の中で、さまざまな「自分実験」をして、体重を減らすための「方程式」のようなものを編み出したにもかかわらず、それを実行していないのである。

 昔の植木等さんの流行歌になぞらえて言えば、「あ~、分かっちゃいるけど、やめられねぇ」のだ。

 どのようにすれば痩せるかは、「自分実験」の成果によって、ほぼ目安がついている。

 まずは、朝食を、普通の食事(私の場合、ご飯、みそ汁、そしておかず何品か)にした場合と、フルーツとヨーグルトのみにした場合には、明らかに、お昼に向かっての空腹度が違っていた。

 後者の「乙女チック」な朝食にした場合には、お昼前に十分におなかいてグウグウ鳴るという、理想的な展開になったのである。

 さらに、お腹の空き具合と、食事を口にした時にどれくらいそれをおいしく感じるかという関係を調べたところ、当たり前のようだが、お腹が空いている時の方が、食べ物をおいしく感じるということがわかった。 


ダイエットの「方程式」はこれだ!

 つまり、体重を減らすための「方程式」は、次のようなものになる。

 朝ご飯を、フルーツヨーグルトのような、あるいはそれに相当する「軽め」のものにする。その結果、お昼までに、十分にお腹が空くような状態にして、お昼をおいしく食べる。

 このような試みを何日か続ければ、体重は、少なくとも下降曲線をたどるはずである。

 私には、そのような確信がある(科学者としては、実際に試してみて、確認してみなければ本当はいけないのだが。そして、この場合、「確認」するということは、つまり、「ダイエットに成功!」ということになるのだが。)


 では、なぜやらないのか? どうして、フルーツヨーグルトの朝食を2、3日続けただけで、「まっ、いいや」とばかり、普通の朝ご飯に戻してしまうのか。

 朝からカレーだ、カツ丼だ、ラーメンだと、朝ご飯はシリアルやトーストに決まっていると思っているアメリカ人が「信じられな~い」とあきれるような暴挙に出るのか。


なぜ女性は痩せたがるのか

 先日、フジテレビの湾岸スタジオ(あの、球体のようなモチーフが印象的な本社からしばらく行ったところにあり、フジテレビの番組の収録の主要拠点になっている)にいた時のこと。

 番組の収録前にプロデューサーの方と、衣装担当の方(おふた方とも女性)とお話ししていて、私は、ある意外なことに気づいた。

 私は、どうやら、「痩せたい!」と本気で思っていないようなのだ。

 雑談をする中で、私は、「そういえば、女性は、なぜ痩せたがるのでしょうか?」と聞いてみたのだ。

 「服ですね。」

 プロデューサーの女性が、即座に言った。

 「自分が着たい服を着られなくなるのが嫌なので、どうしても痩せたくなります」

 「えっ、そうなのですか?」

 「そうです。自分が持っている服が着られなくなるのが嫌ですし、あとお店で、すてきな服を見つけても、それを着られなくなる体形になるのも嫌です。」

 「……」

 衣装担当の方も、「そうなんですよ~」とニコニコ笑っている。

 があーん。そうだったのか。

 私は、服について、そんな欲望を持ったことがまずない。

 まず、服は、最小限しか買わない。そして、私の友人は皆知っていることだけど、1シーズン(場合によっては2シーズン、3シーズン)、ずっと同じ服を着ている。

 しかも、その服は、ジャケットでも何でも、「リュックの中に入れても大丈夫」ということをほとんど唯一の基準で選んでいるものなので、「痩せてあの服を着たいっ!」なんて思ったことが、一度もない。

 私が「マズイな」とつぶやくのは、時折、ズボンが破けて仕方がなく買いに行った時に、最近の流行なのか、お腹はともかく、太ももやその他がキツキツ、パンパンになってしまうことがあって、そんな時、店員さんに「最近の流行は、こういう細身のやつなんですよね」と済まなさそうに言われて、どこかに穴があったら入りたいと思った時くらいに限られている。


有吉さんがつけてくれたあだ名に納得

 それくらい服にこだわりがないから、有吉弘行さんに、まさにフジテレビの湾岸スタジオで、番組収録中にあだ名をつけられた時にも、みんなも笑っていたが、私自身も、「納得」してしまって、一緒に笑ったくらいである。

 そのあだ名は、「賢いホームレス」。

 シャキッとスキッと、というファッションと、私は無縁だ。

 「そうかあ、服を着るために、みんなは痩せるのか。ぼくは、そういうのないからな」

 私がそう言うと、私のサイズを熟知している衣装担当の方が、なぜか激しくうなずいていた。


永遠の不良ダイエット生

 さて、読者のみなさん。この連載において、このところ取り組んできた「ダイエット」ですが、根本的な疑問が生まれてきてしまいました。

 果たして、私、茂木健一郎は、そもそも、痩せたいという願望を持っているのだろうか。痩せないと新しい自分ができない、思い描く夢の生活が送れない、などと、思い詰めたような表情で体重計に乗る、そんな乙女の気持ちがわかっているのかっ!

 脳の仕組みを応用する「脳科学ダイエット」という視点から見れば、「痩せたい」という根本的な動機が解明されなければ、私は永遠の不良ダイエット生となってしまう。

 「英語ができるようになりたい」と本気で思わなければ、いくら英会話教室に通っても本当には英語が上達しないようなもの。

 私は、そもそも、なぜ、痩せたいと思っているのか(あるいは、思っていないのか)。

 このような、サルトルの実存哲学のような難問に、フジテレビの湾岸スタジオで、直面してしまったのである。

 ううむ。

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茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)
脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。

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