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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

「マタ旅」ブーム…リスク覚悟してほどほどに

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水牛車の牛さんのお尻にクギ付けの娘

 あっという間のゴールデンウィークでしたが、楽しまれましたでしょうか。私は後半に石垣・竹富・西表島に家族旅行に行ってきました。昨年の3月に新石垣空港ができてから、羽田空港から直行便が出ているので、子連れでも行きやすくなりました。娘は昨年3月以来2回目の八重山諸島です。私は八重山諸島をとても気に入っていて、今回は5回目の訪問です。

妊娠中にわざわざ…産科医いない離島に

 毎回、八重山諸島に旅行するたびに見かけるのが、妊娠中の旅行客です。八重山諸島で唯一、周産期医療を行っているのは石垣島にある県立八重山病院で、西表島や竹富島、小浜島などの離島には産科医は従事していません。また、県立八重山病院が産科医不足に悩まされていることが度々報道されています。

 しかし、私が西表島や竹富島に行くと、必ず妊娠中の旅行客を見かけます。今回、西表島から水牛車でしかアクセス出来ない由布島に1時間滞在しただけで、少なくとも3人の妊婦さんを見かけました。由布島は島全体が植物園となっている観光地で、現地の妊婦さんではまずないと思います。もし旅行中になにかあった場合、産科医のいない離島ではすぐに医療にアクセスすることは無理ですし(特に宿泊した場合、夜にフェリーはありません)、緊急で運んでもらったり受診したりした場合、大勢の人に迷惑をかけることになります。県立八重山病院に勤めていた産婦人科医の先輩が、妊娠中の旅行者の緊急受診が非常に多く、ただでさえ地域の妊婦さんや患者さんたちの安全を守るので精一杯であるのに、負担が大きいと話していました。

 離島に限らず日本の多くの地域では人手不足でやっとの思いで医療体制を保っているという状態です。地域の輸送手段と医療資源は現地の方のためのものですし、わざわざ妊娠中に医療アクセスの悪い場所に旅行に出かけるのは、自分は大丈夫だろうと妊娠を甘く見ているか、いざという時は誰かが助けてくれるだろうという公共心の欠如のどちらかだと言わざるを得ません。健診で順調だと言われても、俗に言う「安定期」でも、1分後に何が起こるか分からないのが妊娠なのです。

米国で早産、何千万円の支払いも

 日本国内であれば国民皆保険制度があるため、いざという時でも法外な経済的負担が発生することはないかもしれません。しかし、これが海外旅行となると、海外保険傷害保険では、通常妊娠にまつわるものは適用外となるため妊娠中の海外旅行で医療のお世話になると全額自己負担となります。医療費が高額であることで知られる米国で早産してNICU(新生児集中治療室)に入った場合、何千万円というお金がかかるということは実際にある話です。また、医療水準が低い国では、「日本だったら助かったのに……」ということになりかねません。お金ではすまない後悔をすることも十分想定しなくてはいけないのです。

妊娠中にやっておかないといけない「儀式」?

 旅行会社や観光施設の需要掘り起こしが元と言われる「マタ旅」ブーム。「マタ旅」とはほれぼれするくらい上手うまいキャッチフレーズで、妊婦さんの中には「産んだらいけなくなる」「今のうちに行かなきゃ」と焦らされて行く人も珍しくなく、すでに妊娠中にやっておかないといけない「儀式」と化しているという声も聞きます。しかし、残念ながら妊婦さんと赤ちゃんの安全、地域医療への負担は軽んじられていると言っていいでしょう。

 いろんな考えの産科医がいるでしょうが、私個人は妊娠中に全くどこにも遠出をすべきではないとは思いません。仕事で長距離移動をする妊婦さんやもともと医療過疎地に住んでいる妊婦さんもいます。しかし、不要不急の娯楽で行くのならば、早めの週数で医療アクセスの悪くない場所に無理のない範囲内で行くべきだと思います(いくらそれまで休みが取れなかったからといっても、産休に入ってからというのはもってのほかです。34週以降は早産が多いため仕事をすべきではないという理由で34週に設定されているためです)。

 子どもが生まれてからでも旅行にはいけます。「マタ旅」はリスクを知った上でほどほどに。間違っても武勇伝のように人に自慢するのはやめてください。真似まねをする人が出ると困りますので。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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8件 のコメント

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我が身で思い知った経験

kei

宋先生のブログ、時々拝見しております。マタ旅に関して、考えさせられました。現在第2子目を妊娠中で26週です。第一子の時はフルタイムで働いていまし...

宋先生のブログ、時々拝見しております。
マタ旅に関して、考えさせられました。

現在第2子目を妊娠中で26週です。
第一子の時はフルタイムで働いていましたが、毎回の妊婦検診も順調、何の問題もなく、もう少し頑張れば産休でゆっくりできる…と、あの頃は当然のように考えていました。
それが27週目のある日の検診で主治医に告げられたのは「切迫早産です。もう緊急入院しなくてはならない程、頸管長が短くなっています」という、あまりにも突然の診断でした。
明日は自分の誕生日で主人と美味しいごはんを食べる約束もして、明後日は友人と出産前最後になるだろうマタ旅に出掛ける予定の中、私は人生初めての長期入院をしたのです。
健康で、持病1つない自分が、しかもこんな突然切迫早産に?
当時の私はパニックでした。
結局、様々な検査をしても細菌感染や子宮頸管無力症等の原因はなく、お腹が張りやすく、その自覚がないまま至ったのでは、という主治医からの説明でした。
元気な自分が、その後24時間張り止めの点滴生活を送り、どんどん体力も気力も奪われる状況になるだなんて、あの頃どうして想像できたでしょうか。
確かに妊娠や出産は病気ではないので、本人の体調次第では国内・海外旅行も可能だと思います。
周囲でも海外旅行を満喫してきた方も割と少なくはありません。
しかし、健康な自分だから子宮も大丈夫ではないことを長期入院で思い知り、第2子妊娠中の現在も張り止め薬を服薬しながら、慎重に生活する日々です。

妊娠・出産は、本当に何が突然起こるかわかりません

母体が健康であっても、私のようなケースがあることを日々現場で見ていらっしゃるからこそ、宋先生はこのように発信しているのだな、と思います。



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確かに

koharu☆

私自身も医療関係者ですが、先生の声は良くも悪くも現場の方の声だと思います。ただ妊娠を甘くみているか公共心の欠如というのは若干言い過ぎのような気も...

私自身も医療関係者ですが、先生の声は良くも悪くも現場の方の声だと思います。ただ妊娠を甘くみているか公共心の欠如というのは若干言い過ぎのような気もします。

妊娠というのが一分一秒後には危険になるかもしれない、ということは先生や医療従事者であれば当然知っていることです。

ただ一般の方、特に初産ともなれば周りから“産まれたら中々出かけられないわよ~”とか“今のうちに二人の時間を過ごしたほうがいい”などの話題が出るでしょうし、妊娠出産は経験のない未知の領域です。日本の多くの地域で医療体制面で人手が不足しているからあまり遠出はしないようにしようと予測される人の方が珍しいのでは。

そんな意識で旅行なんてもっての他だと言うのは関係者側としては良く理解できますが、具合が悪いときは自力でクリニックまで診療時間内に来てください、という医療側のスタンスそのものだと思います。そもそも私自身は現場で働いていますが、いつ起こるかわからない異常事態に休日加算や夜間診療などの追加の料金が発生するは本来ならばおかしいと感じています。
地域医療が負担を強いられているのも重々承知ですが、そもそも人口を都市に集約している今の行政にも問題があると私は思います。

もちろん妊娠出産が女性にとって命がけの大仕事になるわけですから現場の我々も正しい知識を普及していくために健診時の助産師指導や母親学級、学校での保健指導の充実などを積極的に行っていきましょうね!!

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どこかの雑誌で特集を組んでほしい

じぞう

出産・育児系の雑誌には、ぜひ特集を組んで「マタ旅」について全国の産婦人科医のアンケートを取って、結果を掲載してほしいですね。きっと数多くの「こん...

出産・育児系の雑誌には、ぜひ特集を組んで「マタ旅」について全国の産婦人科医のアンケートを取って、結果を掲載してほしいですね。
きっと数多くの「こんな大変なことがありました」「あやうく流産するところでした」「残念ながら流産されました」という話が出て来るのではないでしょうか?

産婦人科医はただでさえ、人手不足の状況のはずです。
普段診察していない妊婦さんの突発トラブルの対応をさせるべきではないと思います。

安易な考えで「楽しく過ごす」ことを優先させるのではなく、まずは「無事に出産を迎える」ことを優先する意識を持ってもらうことが、本当の意味での「幸せな出産」につながると思います。

別に旅行に行かなくても、安全なストレス解消法はあるはずだと思いますが...。

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