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子ども・子育て支援新制度
親への周知・財源が課題
国の保育制度を改革する「子ども・子育て支援新制度」が来年度から実施されるのに向け、今秋から全国で保育の利用申し込みが始まる。
新制度は、多様な保育サービスを増やすだけでなく、様々な子育て支援も拡充するため、すべての子育て世帯に影響が及ぶ。実施主体となる市町村は準備を急ピッチで進めているが、住民への周知などが課題になっている。
三つの変化
「保育の情報も妊娠期から提供してほしい」「子育て支援策をホームページでもわかりやすく紹介してほしい」。4月初め、東京都世田谷区で子育てする親や市民団体、区の関係者らが集まり、新制度で区が策定する事業計画をめぐり意見を交わした。
大きな制度改革が1年後に迫るのに、親も施設関係者も内容をよく知らない――。会合は、そう危機感を抱いた同区のNPO法人「せたがや子育てネット」が企画した。松田妙子代表(44)は「制度の話は『難しい』と敬遠する人が多いが、かつてなく広範囲の改革。親も子育て支援の関係者も積極的に情報収集しかかわることが大事だ」と話す。
新制度は、2012年夏に決まった「社会保障・税一体改革」の目玉だ。消費税が10%に上がる増税分から毎年7000億円が新たに子育て支援の充実に投入される。国は、保育所や幼稚園の代表や有識者などが入る「子ども・子育て会議」で基本方針や新しい保育サービスの認可基準などを検討してきて、3月末に概要をまとめたところだ。
委員を務めた秋田喜代美・東大教授(保育学)は「これだけの財源が子ども施策に投じられるのは初めて。国が幼児教育や保育の質を改善する方向を明確にしたことは大きな一歩だ」と話す。
新制度で、子育て家庭には様々な変化が及ぶ。
一つは、保育の利用手続きの仕組みが変わり、今秋から申請も始まることだ。保育を利用するには、現在は希望の施設名を伝えて申し込むと、市町村が「当否」を決めるのが一般的だ。新制度では利用したい人はまず「保育の必要性」の認定を市町村から受け、認定されたら原則、全員が利用できる仕組みに変わる。
また、保育が必要ない3~5歳の子の家庭も「教育」の利用が認定される。
二つ目は、保育を利用できる要件が広がり、パート勤務や在学中の人なども対象となる点だ。フルタイム勤務なら1日最大11時間利用できる「保育標準時間」、パートなど短時間労働者でも同8時間の「保育短時間」の認定が受けられる。条件が全国で統一され、都市部はフルタイム勤務でも入れないといった状況が是正されていく。
三つ目は、保育の定員や種類が増えることだ。市町村は、0~2歳児が対象の「小規模保育」(定員6~19人)や「家庭的保育」(同1~5人)など新たな保育事業を導入できることになり、国の給付を受けられる。待機児童解消だけでなく、子どもが減る過疎地でも地域事情に応じた保育を行えると期待されている。
変わる幼稚園
幼稚園の制度も変わる。幼稚園には現在、私学助成などの補助があるが、新制度に参入する幼稚園には、保育所と同様の運営費が国から給付される。所得に応じた利用料も導入される。
私立園の9割は通常の保育時間の後、夕方までの預かり保育を行っているが、新制度では「一時預かり」事業として位置づけられ、利用者負担が軽減されそうだ。私立園は夏ごろには新制度に参入するか否か、保育も提供する「認定こども園」に変わるかを選択する。
幼稚園には認定こども園への移行を検討中のところも多い。認定こども園なら、保護者が仕事を始めても子どもが転園する必要はなくなる。
家庭で子育てする人への支援も増える。各種の情報提供や子育て相談、親子の交流ひろばなどにも消費税が投入されるからだ。全国の自治体は子育て世帯を対象にどんなサービスの希望があるかを調査しており、需要を受け子育て支援の事業計画を自治体ごとに秋までに策定する運びだ。
子育て家庭の状況に詳しい「保育園を考える親の会」の普光院亜紀代表(57)は「経済格差の広がりや地域のつながりの希薄化で、孤立する親が増え、子育てする力が弱っている。全ての子どもによい環境を与えるため、市町村は知恵を絞ってほしい」と言う。
消費税10%が前提
新制度の施行まで1年を切り、各自治体は準備に追われている。都道府県や市町村の8割以上は「地方版子ども・子育て会議」を設置し、事業計画の検討を始めている。
そうしたなか、最大の課題は財源だ。国は新制度の実施に年1兆円超の追加財源が必要と試算。このうち消費税で確保されるのは7000億円で、残る財源のめどは立っていない。消費税の10%への引き上げが延期されれば7000億円の確保も難しくなる。
新制度に詳しい慶応大学の駒村康平教授(社会保障論)は「消費税が10%になっても、そこから来る7000億円だけでは財源は足りず、保育などの質の向上が十分に行えない。財源確保を急ぎ、企業にも両立支援の推進を求めていくことが必要だ」と話す。(樋口郁子、写真も)
認定こども園 幼稚園と保育所を一体化した施設。2006年に国が制度化。親の就労形態を問わないため需要は高いが、文部科学省と厚生労働省に所管がまたがり運営は複雑だった。新制度では所管も給付も一本化される。
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