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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

やはり話されていなかった終末期のこと

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 厚生労働省の「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」が3月に発表されました。

 かなり細かいシチュエーションについてまで質問されており、ざっと見ても、あるいは細かに見ても興味深いものであると思います。ご覧になってみてはいかがでしょうか?

 私が興味深かった点を述べます。

 「あなたは、ご自身の死が近い場合に受けたい医療や受けたくない医療について、ご家族とどのくらい話し合ったことがありますか」という質問に対して、一般国民は実に2.8%しか詳しく話し合っていないということがわかりました。なお、一応話し合ったことがあるというのは39.4%です。

 「一応」レベルでも、不測の事態で意思決定が行えなくなってしまった方の代理決定をす家族の負担感は多少減らすことができるのではないかと考えますが、有事の際に有効な決断を支えるだけの質・量かというと疑問が残ると考えます。できれば「詳しく」話し合うのが良いのは言うまでもないことでしょう。

 60歳以上で詳しく話し合ったことがあるというのが4.1%というのは少なすぎると思います。それだけ元気な熟年者やご高齢の方が増えたということ、あるいは、やはりそういう縁起が悪い話はしたくないということなどからの結果なのだと思いますが、いざというときに心もとないです。

 話し合う際に使用すると良いものとして、藤井悟子著「延命治療について知っておきたいこと~こころに添う最期~」(西日本新聞社刊)が47ページと凝縮したものなのでお勧めです。詳しく知りたい方は、拙著の「すべて、患者さんが教えてくれた終末期医療のこと」(河出書房新社刊)や「どんな病気でも後悔しない死に方」(KADOKAWA刊)が参考になると思います。


「話し」かつ「書面に残す」

 日本人は年間、ざっくり言って、100人に1人が亡くなっています。

 しかし当然のことながら、若い人がそれだけの頻度があるわけではありません。

 だいたい65歳(~69歳)の群から、死亡率はその100人に1人を超えます。100人に1人は決して少ない数ではありません。いわんやこれは死亡のことですから、死亡はしなくても重い病気――時に意思決定ができなくなるくらいの――になる可能性はもっとあるでしょう。

 調査では、「意思表示の書面を作成しておくこと」に賛成の方(一般国民は69.7%)に対して、「実際に書面を作成していますか」という質問も為されております。

 結果は一般国民3.2%、医師5.0%、看護師と介護職員はともに3.5%でした。

 さらに60歳以上でも6%という結果だったのです。

 私はもう少し「話し」かつ「書面に残したほうが良い」と思います。

 私は以前の連載でも述べましたが、還暦は一つのきっかけになると思います。60歳以上は特に「話し」かつ「書面に残したほうが良い」と考えます。

 一方でこの連載を読んでいらっしゃる方は、アンダー60の方が多いでしょうから、ぜひとも次に年長のご家族と会った時には「いざというとき」の話をし、また書面を作ることを促してみてはいかがでしょうか。

 残念ながら、人は無限には生きられません。ある程度のところで、やはり今後のことは考えねばならないものと、多数の逝きし方を看取みとってきた立場からは思っています。

 次回に続きます。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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