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講演(4)認知症1000万人目前?「予備軍」段階で対策を

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軽度認知障害、2~3年で認知症にも

 これから、認知症の発症予防の話をしたいと思います。

 「認知症予備軍」という言葉があります。

 まだ認知症ではないけれど、正常ではないという、認知症の一歩手前まで行っている方のことです。認知症予備軍は2012年時点で400万人いるということを、厚生労働省が発表しました。認知症予備軍は、何の介入もせずに自然経過した場合、2~3年以内に認知症に移行することが分かっています。また、厚生労働省によると、2012年時点で認知症の方が462万人いるということなので、現在の状況を大雑把に「認知症500万人時代」と表現しています。ところが、この認知症予備軍の方に対して何の介入もしないでおくと、予備軍が認知症に移行して、あっという間に「認知症1000万人時代」を迎えることになってしまいます。

 認知症予備軍の方が認知症になるのを防ぐのが、我々の急務であると考えています。認知症予備軍を専門用語では、軽度認知障害(MCI)と呼びますが、これは、正常の状態から認知症への移行状態のことです。確かに物忘れは増えていますが、日常生活に差し支えるような深刻な物忘れではない段階です。


認知症、予防可能な時代に…課題は早期発見

 つい数年前までは多くの研究者が、認知症は予防できないと考えていました。そもそも認知症は治らない病気だと考えていたからです。

 認知症の約7割を占めるアルツハイマー型認知症は、アミロイドβ(ベータ)たんぱくという物質が脳の中にたまることで発症します。アミロイドβたんぱくがたまりますと、リン酸化タウたんぱくが変化を起こして、神経細胞が死にます。神経細胞が死ぬことによって、物忘れが起こります。

 アミロイドβたんぱくは、一度たまると絶対に溶けないので、認知症は治らないと考えられていました。治らない病気なので、予防も不可能だと考えられていました。

 ところが最近になって、γ(ガンマ)セクレターゼ調整剤やβセクレターゼ阻害剤などといった、アミロイドβたんぱくを溶かす物質があることが判明してきました。

 このような薬が、認知症の根本治療薬になるのではないかと期待されて、世界中で新薬開発のための研究が進められています。

 また、マウスによる実験によって、薬だけではなく、環境を良くすることによってアミロイドβたんぱくを溶かすことができることも分かってきました。

 認知症は治療できる病気であるこういうことがわかってきた時代に何をすべきか。それは、早期発見だと思います。アミロイドβたんぱくも、早い段階で溶かしてあげないと、神経細胞が死んでしまってから溶かしても意味がないわけですから、早期発見が必要ということになります。

 ただ、認知症に気が付くということが、極めて難しいことなのです。


チェック項目三つだけ…「物忘れ検診」

 認知症を効率良く、早く見つけるための方法を10年ほど前に真剣に考えて、たどり着いた結論が検診でした。がん検診と同じように「物忘れ検診」をやって、軽度の物忘れを早く見つけて、早期治療や予防につなげようということなのです。

 ただ、その頃には、簡単に物忘れがチェックできる機械がなかったのです。そこで、3分以内に簡単に物忘れをチェックできる機械を考案しました。これを、物忘れ相談プログラムと呼んでいます。チェック項目は三つだけです。


1)言葉の遅延再生
 例えば、「桜」「猫」「電車」などの言葉を最初におぼえてもらって、後でどんな言葉だったかを質問します。これで、おぼえたことをすぐに忘れてしまうという典型的な認知症の症状をチェックすることができます。

2)時間の見当識
 「きょうは何年の何日何曜日ですか」という質問です。日にちというのは毎日変わりますから、結構難しい問題なんですね。

3)立方体の模写
 立方体の絵がうまく描けるかどうかをチェックします。


 この機械を使って、鳥取県の琴浦町で物忘れ検診と予防の取り組みを始めました。この検診は、65歳以上の介護保険を受けておらず、一見して健康そうに暮らしておられる方を対象に行っています。


運動・知的活動・コミュニケーション…予防教室が効果

 検査の結果、認知症の疑いのある方には専門の医療機関を紹介して、早期治療に結びつけていくのですが、まだ認知症ではないけれど予備軍である方は、予防教室に通っていただくようにしています。現在、アルツハイマー型認知症に関しては、悪い因子、それを予防する因子など、いろいろとわかってきました。その中で、認知症になる目前の方に最も効果的なことは、運動、知的活動、コミュニケーションの三つだということがわかってきました。

 週1回、2時間の予防教室を3か月間実施するのですが、そのメニューとして、運動とともに、頭と指を使う知的活動をやっていただきます。さらに、一人暮らしで話し相手のいない方も、こういう機会に参加することで職員や他の参加者の方とコミュニケーションを取ることができます。

 タッチパネル式認知機能評価法(TDAS)というタッチパネル式コンピューターを使って行う認知機能評価で、予防教室の始まる前と3か月後で比較すると、物忘れが改善していることがわかります。

 また、予防教室の効果について3年間にわたって追跡調査してみても、良好な状態が継続していることがわかりました。

 認知症予備軍の方は、何の介入もせずに自然経過すると、3年以内に認知症に移行するということですが、この予防教室に参加し、3年たっても認知症ならずに経過しているのをみると、明らかに認知症予防が効果を上げていると言えます。

 
浦上克哉(うらかみ・かつや)さん

 鳥取大学医学部教授、認知症予防学。1956年生まれ。鳥取大学医学部卒。同大学医学部脳神経内科などを経て、同大学大学院医学系研究科保健学専攻・病態解析学分野教授。アルツハイマー型認知症および関連疾患を専門とし、診断マーカーの開発研究、外来での診察と治療、ケアなど総合的に認知症と取り組んでいる。著書に「認知症 よい対応・わるい対応―正しい理解と効果的な予防」(日本評論社)、「認知症は怖くない18のワケ」(JAF MATE社)など多数。


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