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認知症 悪化目立つ被災地

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生きがい取り戻す支援急務

多世代が集まる「居場所ハウス」でくつろぐ人たち(岩手県大船渡市で)

 東日本大震災の被災地で、認知症の症状を悪化させる高齢者が相次いでいる。閉じこもりや、担ってきた役割を失ったことなどが原因とみられており、新たな支援策が求められている。

漁ができず

 「また、浜に出たいね」

 岩手県釜石市の海辺の集落。津波を免れた高台の自宅で、認知症を発症した元漁師の男性(84)が、つぶやいた。

 震災前、毎朝漁に出て、ささやかな収入を得ていた。津波で船を流されてからは妻と自宅にこもり、テレビと昼寝の日々。半年もすると、もの忘れが急速に進み、怒ることが増えた。昨年秋、認知症と診断された。

 「漁ができなくなり、意欲がなくなったのだろう。がれき処理を手伝ってもらえばよかったのか」と、隣に暮らす長男は自問する。自身も漁師。震災後の復興作業に追われ、父親の変化に気付いても病院に連れて行くことはなかった。

 市の中心部にある「釜石のぞみ病院」で男性を診察する高橋昌克医師は、「環境の急変や生きがいの喪失が認知症の進行を早めたのではないか」とみる。

 市内の漁協によると、500人いる組合員の多くは高齢者。津波で失った船を新たに購入する負担が重いなどの理由で、20~30人が漁をやめた。復興が進む一方、親しい人や仕事を失った高齢者が体調を崩す例が増えている。高橋医師は、「医療や介護の充実だけでなく、生きがいや自尊心を取り戻す支援が必要だ」と指摘する。

仮設でのリスク

 東北大加齢医学研究所の古川勝敏准教授の研究チームが昨年、宮城県気仙沼市とその周辺の仮設住宅に暮らす700人の高齢者を対象に、タッチパネル式の簡易検査で記憶力などを調べたところ、36%が認知症を疑う水準だった。また、週3日以上外出する人の方が検査の平均点が高かった。

 厚生労働省によると、高齢者の28%が認知症かその予備軍と推計されている。単純比較はできないが、仮設住宅の住民のリスクは、一般よりも高い可能性がある。同チームでは今後、認知症予防のため、仮設住宅内でもできる運動方法の開発などに取り組む。

 古川准教授は、「生活環境の変化や孤立が認知機能を低下させている可能性がある。被災地の高齢化は急速に進んでおり、早急な対策が必要だ」と指摘する。

住民独自の活動

 被災地の認知症支援では、仮設住宅とその周辺にサポートセンターが約100か所設けられ、見守りや介護予防などを行っている。ただ、専門職の活動だけでなく、住民独自の活動も欠かせない。

 岩手県陸前高田市では、看護師やケアマネジャーらで作る市民団体「認知症にやさしい地域支援の会」が、3年前から仮設住宅を回り、閉じこもり防止を呼びかける寸劇を上演している。認知症の夫とその妻が、積極的に周囲と関わることで症状悪化を防ぐという内容だ。

 菅野不二夫会長(79)は、「お年寄りが多い仮設住宅の周りは森閑としていて心配になる。周囲と交流して仮設での生活を乗り切れるよう支えたい」と話す。

 お年寄りの力を生かす場を設ける動きもある。同県大船渡市では、昨年6月、住民で作るNPO法人「『居場所』創造プロジェクト」が「居場所ハウス」を開設した。多世代の住民が集まってお茶を楽しみ、イベントなども開かれる。

 アパートに独りで暮らす臼井クニエさん(90)は、常連の一人。週1回のデイサービス以外は自宅で過ごしていたが、毎日来て子どもや若い世代に戦争体験などを話している。かまどの火おこしや郷土料理作り、台所の片づけなど、来た人ができることをする。

 「ハウス」近くには仮設住宅が並び、復興住宅もできる。同法人の内出幸美理事は、「社会とのつながりの喪失が認知症の悪化につながる。互いに支え合う関係を育てていくことが必要だ」と話している。(小山孝、写真も)

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