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長谷川嘉哉医師講演「もしも家族が認知症になったら」

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講演(2)認知症とは?…物忘れだけでなく、幻覚・妄想も

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認知症の兆候

 それでは「認知症とは?」というところからお話をしたいのですが、家族が認知症に気づいた変化について、以下に挙げてみます。

「同じことを何度も言ったり聞いたりする」 45.7%

「ものの名前が出てこなくなる」 34.3%

「置き忘れ、しまい忘れが目立つようになる」 28.6%

「時間や場所の感覚が不確かになった」 22.9%

「病院からもらった薬の管理ができなくなった」 14.3%

「以前はあった関心や興味が失われた」 14.3%



 後で振り返ってみて、「あれが認知症の兆候だった」という変化なのですが、ほとんど物忘れですよね。

 物忘れなんて、よくあるじゃないですか。特に40歳を超えると。

 それなら、物忘れがひどくなったら、どの程度の段階で病院に行かなければいけないかという判断基準についてですが、女性の場合の兆候は料理です。

 「料理がうまく作れなくなった」「味が変わった」「レパートリーが変わった」という場合、認知症である可能性が高いということになります。

 男性であれば、「今までやっていたお金の管理ができなくなった」という判断基準があります。

 さらに大事な判断基準が「他人の目」です。

 近所の人が「お宅のおじいちゃんやおばあちゃん、おかしいんじゃない」と聞いたら、まず認知症です。今の時代に、他人のおじいちゃん、おばあちゃんが「おかしい」と指摘するのは、よっぽど勇気がいることですから。だから、認知症もよっぽど進行しているということです。

 実の息子さん、実の娘さんの目は当てになりません。「認知症でなかったらいいな」という希望的観測があるからです。人間というのは、立場が変わると、目が曇ってしまうものなのです。


中核症状と周辺症状

 認知症の症状は、中核症状と周辺症状に分けられます。

 中核症状では、物を覚えて、維持して再生するということが難しくなります。さっき覚えたことを、もう忘れてしまう。同じことを繰り返すなどといった症状です。

 中核症状のポイントは何かというと、「家族は、まだ困らない」ということです。

 ただ、この段階で、物忘れなのか、認知症の中核症状なのか、ということは、ある程度、把握する必要があるのです。

 この中核症状がさらに進行すると、周辺症状が出てきます。

 まずは、人格・性格変化で、元々穏やかだった人はキツくなりますが、元々キツかった人が穏やかになるということは、ほとんどありません。

 さらに、幻覚・妄想、せん妄、徘徊はいかい、暴力行為、過食・拒食・異食、失禁・不潔行為、睡眠障害、多動など…。これらの症状が出ると家族が困るということで、この周辺症状の段階で受診されることが非常に多かったのです。

 皆さんに知っておいてもらいたいのは、認知症というのは物忘れだけの病気ではないということなのです。幻覚・妄想、せん妄なども含めて認知症なのです。

 周辺症状というのは、男女でも随分違うのです。


妄想にも男女差が…

 妄想を例に挙げると、女性に顕著なのが「物られ妄想」です。男性はそれと違って、「妻盗られ妄想」で、「奥さんが浮気しているのではないか」という妄想になるのです。

 元々奥さんは、旦那さんに関心がないのでしょうね。

 だから、認知症治療の現場でよく言われているのが、「妻は旦那を忘れ、旦那は妻を忘れない」ということです。

 昔は、奥さんが旦那さんに尽くしました。だから、旦那さんはそれを忘れない。

 ところが、奥さんは、本当はそんなことをやりたくない。だから、すぐに忘れてしまうということです。

 ただ、これからの時代は違うと思います。

 若い世代は男女平等なので、旦那さんが奥さんを所有するのではなく、「ボクの妻でなく、ボクと妻」という考えになるでしょうね。

 ここまでの話で何が言いたいのかといいますと、被害妄想というのは、認知症の周辺症状の中で絶対に起こるということなのです。

 
長谷川嘉哉(はせがわ・よしや)さん

 土岐内科クリニック理事長、認知症専門医。1966年生まれ。1990年、名古屋市立大学医学部卒業、医学博士。2000年、岐阜県土岐市に開業し、認知症専門外来と在宅医療を実践。祖父が認知症であった経験から、患者の家族の立場に立った医療を提供。著書に「患者と家族を支える 認知症の本」「介護にいくらかかるのか? いざという時、知っておきたい介護保険の知恵」「公務員はなぜ認知症になりやすいのか ボケやすい脳、ボケにくい脳」。



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