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茂木健一郎のILOVE脳

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「乙女な朝食」にチェンジするも…

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 前回のコラムで報告したように、今の私の肉体は、小学校の頃と違っていることが判明した!

 なんと、朝食を普通に食べると、お昼まで、「空腹」の状態にならないのだ。

 なるほど、これでは、体重が減らないのも道理である。

 「空腹」の状態になって、おなかにたくわえられた脂肪を燃やさなければ、そもそも体重が減るはずもないからである。


科学の命は「データ」をとること

 そのことを明白に伝えるグラフを見ながら、私は「ううむ」とうなっていた。

 俳人の黛まどかさんに、「走っているのに、よくその体重が維持できるわね」と言われていることからもわかるように、運動しただけでは、体重を減らすことができない。やはり、鍵になるのは、カロリー摂取量である。

 ほんの少しのカロリーをとっただけでも、それを運動で減らそうと思うと、かなり苦労する(はずだ)。朝から、カレーライスやカツ丼を食べている場合ではないのである(そういうことが、実はしばしばある)。

 そこで考えた。やはり、理想的には、小学校の私がそうであったように、午前10時くらいにお腹が最大限いて、それからお昼を食べるまでに、空腹の時間がある方がいいに違いない。

 朝食を食べたあとで、午前中、いかにアクティブに活動したとしても、それだけで、お腹が空く状態に持っていくことができるわけではない。

 だったら、そもそも、1日のスタートに食べるものの量を減らすしかない。


「三日坊主」ならぬ、「三日ヨーグルト」

 そこで、私は、作戦を立てた。実験的に、朝食の内容を変えてみよう。

 私は、いつも、ご飯を茶わんに1杯、みそ汁、それにおかずを2、3品という朝食をとっている。これだと、お昼前に十分にお腹が空かないようである。

 そこで、試しに、朝食を、ヨーグルトとフルーツだけにすることにした。

 子どもの頃から、母親に、「朝のフルーツは金」と言い聞かされて育っている。何よりも、フルーツは大好きである。どうせ少ししか食べないのならば、自分の好物が食べたい。

 ヨーグルトは、乳酸菌が胃腸に良い。食事を控えても、胃腸のコンディションは整えなければならない。フルーツでビタミンや繊維質をとり、ヨーグルトで、乳酸菌を補えば、朝食としては、バランスがいいだろう。

 年度が変わり、そろそろ桜が満開になり始めたある朝、私は、テーブルに座って、ヨーグルトとフルーツをぐるぐる混ぜていた。

 容器の中にある、なんだか乙女の食べ物を、スプーンですくう。

 ぱく。ぱく。ぱく。

 これで、朝食は終わり!

 なんだか、というか、大いに物足りない気がした。いつものように、白いご飯と、みそ汁をとりたい思いが大いにあったが、これは実験である。仕方がない。


ミラノ出張後の体重は…

 これは、私だけの感じ方かもしれないが、やせるために食べ物を減らす、というのは、なんだか姑息こそくな気がする。だから、これは、あくまでも実験してデータをとるためという位置づけである。

 科学の命は、「データ」をとることである。朝食を普通にとるのと、フルーツヨーグルトだけで済ますのでは、お昼までの空腹度には、どのような違いが出るのか?

 困ったことに、イタリアのミラノへの出張が控えていた。旅先では、無理なダイエットをしたくない。そもそも、仕事がずっと入っていて、お昼ご飯を食べられないこともしばしばだから、朝食をきちんと取りたい。ミラノに旅立つ前に、朝食をフルーツヨーグルトにする実験は、3日間しかすることができなかった。それでも、なんとか、「データ」がとれた。

写真1

 さてさて、朝食をフルーツヨーグルトだけにした場合、食事をしてからの空腹度がどのように変化するかをグラフにしたのが、写真1である。

 このように、通常の朝食をとった時に比べて、明らかに早く、空腹度が増していることがわかる! 「0」=満腹、「1」=ほぼ満腹、「2」=そろそろお腹が空き始めた、「3」=お腹が空いた、「4」=最大限に、お腹が空いた、の5段階で評価して、食事をとってほぼ3時間後には、「お腹が空いた」という状態になっている。これならば、ランチ前に、空腹状態を経験することができる!

 そうか、朝食を、フルーツヨーグルトにさえすれば、私はダイエットに成功するんだ!

 実際、この実験をした3日間で、体重は82.7キロから、82.2キロに、0.5キロ減った。このペースで減れば、1か月になんと5キロの減量に成功することになる!

 やっぱり、大切なのは、データだね。データに基づく科学的アプローチ、そして、自らにどれくらい空腹か問う、応用脳科学のメタ認知が肝心だ。

 すっかり安心した私は、パリ経由でミラノへ向かう飛行機に乗った。

 夜の便。夕飯はすでに食べていたが、機内食が出たので、なんとはなしに食べてしまった。

写真2
写真3

 ミラノに着くと、ホテルの朝食が部屋代に含まれていた。しかも、ルームサービスでも持ってきてくれるという。

 それはいいね、と私は、さっそく注文した。1日目の朝食は、こんな感じ(写真2参照)。2日目の朝食は、こんな感じ(写真3参照)。

 いやあ、イタリアのパンは、実にうまいんだよねえ、諸君!

 たくさん食べて、お昼まで、ぜんぜんお腹が空かなくて、実に快適だった。そして、ちゃんとランチもとってしまった。いやあ、イタリアのパスタは、実に旨いんだよねえ。ついつい、食べ過ぎてしまう。

 はっと気づくと、すっかり、ダイエットのことは忘れている。ううう。日本に帰って、体重計に乗るのがこわい……。

 朝食をフルーツヨーグルトにするという「理論」はわかったが、データをとった3日間しか続かなかった。これぞ、「三日坊主」ならぬ、「三日ヨーグルト」である。

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茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)
脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。

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