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いい湯で健康 温泉と自然療法

yomiDr.記事アーカイブ

日本3大美人の湯…お肌ツルツルの秘密は?

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 前回に続き、療養泉の適応症の話です。

 さて、日本に一番多い泉質のナトリウム塩化物泉(食塩泉)ですが、皮膚表面のたんぱく、脂質などと温泉成分が反応して皮膚表面に膜(錯塩=さくえん)を形成し、汗腺を覆います。すると汗が蒸発しづらくなるので気化熱が奪われにくくなり、保温効果があるので「熱の湯」といわれ、湯冷めしにくい泉質で冬向きの温泉です。

 食塩泉の保温効果を検討するために、定山渓温泉で行った実験が報告されています。温泉水を満たした浴槽に、大人がすっぽり入る大きさの2本のチューブを入れ、一方には温泉水、もう一方には沢水を満たし、同じ温度にしてチューブ内入浴を行いました。その結果、温泉水を満たした方が、浴後の皮膚温がしばらく高めに推移し、食塩泉の保温効果が立証されました。温泉入浴の実験を行うときは、環境の影響を除かなくてはいけません。ですから温泉地で温泉に入った時の実験と家庭のお風呂での実験は直接比較できないので、このような工夫が必要になります。

名湯多い単純温泉、入ってさえいれば症状改善?

 次に単純温泉の特徴ですが、温度基準(25度以上)を満たすだけですので、溶解成分による刺激が少なく、老若男女を問わずに入ることができるお湯です。病後の回復などにも適しています。意地悪な方は家庭のお風呂での入浴とどう違うのか? などと質問します。成分基準を満たしていないといっても水道水とは異なります。塩化ナトリウム(食塩)や炭酸水素ナトリウム(重曹)などが溶け込んでいるものあり、中にはアルカリ性単純温泉として美肌効果で知られている温泉もあります。古今東西の名湯が多く、「坊っちゃん」で有名な道後温泉や下呂温泉、湯布院温泉などは皆さんもご存じでしょう。

 単純温泉は「脳卒中の湯、中風の湯」などと呼ばれており、中でも長野県にある鹿教湯(かけゆ)温泉が有名です。では、鹿教湯温泉に入ってさえいれば、脳卒中後の片まひなどの症状が改善されるのでしょうか? 答えは「NO」です。昔の鹿教湯温泉は現在のように旅館・ホテル内に入浴施設がなかったので、河原にある共同浴場まで泊まっている旅館から階段を上り下りして入浴していたそうです。また、46段の階段を上って文殊堂に病気祈願をしに行ききしていました。つまり、知らないうちにリハビリを行っていたのです。このことは温泉地の存在する自然環境がとても重要であることを示しています。

美肌の湯、共通点はアルカリ性

 日本3大美人の湯をご存じでしょうか。それは(1)和歌山県龍神温泉、(2)島根県湯の川温泉、(3)群馬県川中温泉です。共通しているのは、pHが8.1-8.7でアルカリ性であることです。先週のブログにも書きましたが、アルカリ性なので皮脂成分を洗い流し、肌が清浄化されて奇麗になります。お湯の肌触りも軟らかく、ヌルヌル、ツルツルしてきますので、本来は美肌の湯と呼ぶのが適切ですが、転じて美人の湯となったのでしょう。皮脂が取れてすっきりし清涼感が得られるため、ナトリウム塩化物泉の「熱の湯」に対して「冷の湯」と呼ばれ、どちらかといえば夏向きの温泉といえます。

 これらの温泉の泉質はどうでしょうか。別名美人の湯と呼ばれるナトリウム炭酸水素塩泉(重曹泉)なのは龍神温泉だけです。湯の川温泉はナトリウム・カルシウム・硫酸塩・塩化物泉で、川中温泉はカルシウム硫酸塩泉です。どうでしょうか、気づかれましたか。どちらもカルシウム硫酸塩泉の特徴をもっているのです。この泉質は旧泉名では石こう泉といいます。石こう泉に入ると肌がツルンツルン、すべすべしてきます。まるでベビーパウダーとか片栗粉を塗った感じです。ということで、肌がより奇麗になる泉質を美人の湯と名づけたのだと思います。私は残念ながら3大美人の湯を体験したことはありませんが、旭岳温泉の石こう泉に入浴して、お肌がピカピカになった気分になりました。

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いい湯で健康 温泉と自然療法_大塚吉則_顔120px

大塚吉則(おおつか よしのり)

北海道大大学院教育学研究院教授

 

1955年、北海道生まれ。79年、北海道大医学部卒、第1内科に入局。89年から米ニューヨーク市のコーネル医科大に留学。北海道大病院登別分院・医学部附属温泉治療研究施設(温研)勤務などを経て2007年から現職。国際温泉気候医学会(ISMH)アジア・オセアニア地区代表、日本温泉気候物理医学会理事長、日本生気象学会幹事、NPO健康保養ネットワーク理事長。主な著書に「新版温泉療法 温泉と自然が生み出す健康づくり」(Crews)、「そもそも、すべてが『体質』のせいなのか? 自然治癒力を引き出し幸せになる方法」(Medical Tribune)など。

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2件 のコメント

山梨の温泉、皮膚病に効くか

めざめたじいさん

 木曜日1泊で石和に行きました。大塚先生のブログを思い出しながら。皮膚病にはぬるめのお湯に長く浸かるとあるが、夕方と夜、朝の3回入りました。平日...

 木曜日1泊で石和に行きました。大塚先生のブログを思い出しながら。皮膚病にはぬるめのお湯に長く浸かるとあるが、夕方と夜、朝の3回入りました。平日はみな年寄りばかりで静かでした。

 温泉の効果は、もう一つあるように感じました。知らない者同士のハダカの触れ合いという。ワインを召したご年配の二人と、結構際どい話題になり「知らないだけで、皆さん同じように悩んでいるんだ」と。85歳でまだ奥方を喜ばせる努力を怠らない人に、皮膚泌尿器科で薬の処方をしてもらうといいと教える78歳、80歳はまだ大丈夫かと後期高齢者の励まし合いがあった。

 家内も久し振りの大浴場で見たのは、膝痛になる人が多いことに納得したようだ。肥満の年寄りの多さに驚いていた。食べ過ぎていると実感したようだ。際どい話はなかったろうが、きょうからの食生活に何らかの情報を得てきたようだ。

 大広間で、二人でむつまじく食事しているのは少ない。お一人様のテーブルが目立つ。二人で顔を見合わせ、一緒に杖も使わないでここまで来られた幸せを、石和温泉は私たちに教えてくれた。

 1泊で温泉の効果が出て来るとは思わないが、生活のリフレッシュという効果は確実に現れた来た。

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硫黄成分について。

葵上

硫黄の香りがするのが温泉だと、勝手に思っておりましたが、硫黄成分が肌などへ及ぼす効果を教えてください。

硫黄の香りがするのが温泉だと、勝手に思っておりましたが、硫黄成分が肌などへ及ぼす効果を教えてください。

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