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[小学生の部・優秀賞] さみしいコール

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吉村 玲華(よしむら れいか)(11) 東京都・小学校6年

 私は、五才の時に入院したことがあります。夜中、お母さんが私を見ると何の反応もしないので、慌てて救急車を呼び、近くの病院へ運ばれたそうです。その時の事は全く覚えていませんが、気が付くと知らないベッドの上で寝ていました。心配そうな顔をしていた両親。インフルエンザでひきつけをおこして運ばれたのだと教えてくれました。

 入院したその日はひな祭り。他の病室の子供達は楽しそうにパーティーをしていました。私の病気は人に移してしまうので病室から出られず、皆の楽しそうな声を一人、自分の部屋で聴き、病院でひな祭りをする子もいるんだという事を知り驚きました。私だって幼稚園へ行けば、お友達と楽しくひな祭りをしていたのに、と少し淋しくもなりました。

 夜になるとお母さんが帰ってしまいます。一人で部屋に取り残され、淋しくて淋しくて仕方ありません。私にとって初めて家族と離れて過ごす夜。天井のタイルの線を何度数えても眠くならないし、時計の音も気になるし、お父さん、お母さん、お兄ちゃんに会いたくて涙が止まりません。そういえばさっき看護師さんが頭の上のボタンを指して「これは、ナースコールと言うんだよ。何かあったらこのボタンを押してね。」と教えてくれたのを思い出しました。迷いながらも恐る恐るそっとボタンを押してみました。すると「どうしたの?」と優しい声。「あっあのーすいません。淋しいんですけど。」と泣きそうになるのをこらえて言いました。すると少し間があってから「すぐに行くね。」と温かい声。私の病室に看護師さんが来てくれたのです。絵本を読んだり、ぬりえを教えてくれたり、私が眠るまでの間優しく付き合ってくれました。夜中、目が覚めるととなりでライトの明かりをつけて何か書き物をしている看護師さんがいました。

 それから退院するまでの五日間、毎晩「あっあのーさみしいんですけど」と「さみしいコール」をする私に看護師さんは付き合ってくれました。夜、ボタンを押す時、他の子供達の世話があるのに申し訳ないと思う気持ちがありながらも、看護師さんがいてくれる嬉しさと心強さに甘えてしまいました。

 私にとって入院生活はその一回だけでしたが、今でも入院の時の淋しさと、看護師さんの優しさを忘れた事はありません。さみしいコールを押す事で、他の病室の子供達が淋しい思いをしていたのではないか、やらなくてはいけない看護師さんの仕事を邪魔していたのではないか、そう考えると今でも申し訳ない気持ちでいっぱいになります。それと同時に、私もこの看護師さんのように相手の気持ちを思いやり労わってあげられるようなステキな女性になりたいと思います。

第32回「心に残る医療」体験記コンクールには、全国から医療や介護にまつわ る体験や思い出をつづった作文が寄せられました。入賞・入選した19作品を紹 介します。

主催:日本医師会、読売新聞社
後援:厚生労働省
協賛:アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)

審査委員<敬称略>
落合 恵子(作家)、竹下 景子(俳優)、ねじめ 正一(作家・詩人)、原 徳壽(厚生労働省医政局長)、外池 徹(アフラック社長)、石川 広己(日本医師会常任理事)、吉田 清久(読売新聞東京本社医療部長)

 

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