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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

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腸閉塞を治しても食べられない理由

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 腸閉塞とは、おなかの中に散らばった腫瘍によって腸が圧迫されるなどして、腸管の中がふさがってしまい、詰まった先から通過できないためにどんどん腸液等がまってしまって、腹痛や嘔吐おうとを催す状態です。

 お腹の中にある内臓のがんの高度進行期にしばしば発症します。

 ふさがってしまった部分から口側に非常に腸液が溜まって苦しいので、しばしば腸閉塞の管(イレウス管)が鼻から食道、胃、十二指腸を通って小腸まで挿入され、溜まった液を外に出すことで対応する治療が行われています。

 しかしこの管を入れる、あるいは入れておくことも患者さんにとっては楽ではありません。特に推測される余命が短い月単位の場合は、亡くなるまでこの管を入れることを余儀なくされることもかつてはしばしばありました。

 実は腸閉塞には効く薬剤、オクトレオチドがあります。また臨床的にはステロイドもよく効きます。私自身は手術ができず、推測される余命が厳しい患者さんにも上記の薬剤を用いて、ほぼ100%、イレウス管を挿入せずに苦しい症状を和らげることができています(詳しいやり方に興味がある方は『間違いだらけの緩和薬選び』という専門書を参照ください)。

 薬だから効くのが遅いのではないか……ということは実はまったくありません。印象としてかなり早く効きます。

 余命が半年程度ある場合は、食べられるようにするため、腸のふさがっているところを手術して取り除いて、ふさがっていないところ同士をつなげるというバイパス手術が有効です。


余命が短い場合、手術より薬物で

 それでは余命が短い月単位の場合はどうでしょうか?

 「食べられるようになると思って手術を受けたのに、全然食べられるようになりません」という嘆きを患者さんから聞くことがあります。

 ふさがっている部分を取り除いて、見かけ上、腸はどこも狭くなっていません。それなのにどうして食べられないのでしょうか?

 前回までのお話を思い出してください。そう、悪液質です。

 末期の患者さんが食べられないのは、単に腸閉塞だけではなく、さまざまな病態が併存している可能性があります。

 特にがん性悪液質の患者さんは、これまで述べて来たように、たんぱくや脂肪を分解する経路が活発です。

 そこに手術という、異化(栄養素を分解すること)を強める治療を行うことが全体としてみるとあまり良くないことはご理解頂けるのではないかと思います。

 だからこそ、腸はつながっても、悪液質や異化の進行から、食事自体は食べられないし、衰弱も進んでしまう、ということが起こり得るのです。

 余命が短い月単位の際は、ですから、まず手術やイレウス管というのではなくて、薬物による加療を受けて消耗を少なくするのが最良でしょう。ぜひ詳しいお医者さんや緩和ケア医に相談してもらいたいと思います。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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