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[小学生の部・最優秀賞] ぼくのひげ先生

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堀山 喜史(ほりやま よしふみ)(9) 埼玉県

 ぼくは夜、ねむるのがこわい時があった。

 おばけなんか信じているわけじゃないよ。

 お母さんが弟の世話にかかりっきりで一人ぼっちでふとんに入るのなんて、もうなれっこだ。そんなことが理由じゃない。ぼくはねむっている間に何ども息が止まりそうになって目がさめてしまう。息が止まりそうになるのが、どのくらいこわいことかって‥それは、息が止まりそうになった人にしかわからない底ぬけのこわさだ。ぼくはまくらの上でもがいて口を大きく開ける。金魚みたいに口をパクパクさせると、ドッと空気が流れこんできて、やっとホッとする。次の日は一日ねむい。

 ぼくの鼻は、ひどいアレルギー性鼻えんとしんだんされている。かかりつけ医のS先生は、ぼくのおじいちゃんにふんいきのよくにたひげの先生だ。頭にそんご空のようなわっかをつけ、そのわっかには、丸いステンレスのお皿がついていて小さな穴が真ん中にあいている。その穴から、ぼくの鼻の穴をジロジロとみる。さい初ははずかしかったけれど、もうなれた。ひげ先生は(S先生をぼくは、ひそかにこうよんでいる)生まれも育ちも関東なのに熱心な阪神ファンだ。そこも、ぼくの大好きな所の一つだけど、何より好きなのは、いつもニコニコおもしろいことだ。きちんとしんさつしながら、かんごふさんたちに指じを出し、カルテを書きこみながら楽しいお話をしてくれるひげ先生を、時々ぼくは、しょうとく太子なんじゃないかと思ってしまう。ぼくの鼻はそうとうひどいらしいけど先生の口から説明をうけると「なおるぞ」と思えるから不思ぎだ。息が止まりそうになった夜のよく日に必ずお母さんがひげ先生へつれてってくれる。なみだ目で入っていくぼくに「この薬に、とっておきの〝ま法〟をかけておいたからね。もう大丈夫だよ。む理して鼻で息をしようとしないで、まずは、口で息をしてみてごらん。そうしてこの薬をシュッと一ふきしてみてください。その後はすぐねむれるからね。ねらいを定めてシュッと一ふき。ねらいすぎて空ぶりするのが阪神だけどね。」ガハハハハと周りのおばあちゃんかんごふさんたちと、ごうかいにわらうひげ先生は、季節はずれのサンタさんが白衣をきてるみたいだ。なきそうになって病院のドアを入ったのがうそみたいにウキウキした気持ちで病院を出る。ぼくの手には何といっても先生の強力な〝ま法〟がかかった薬が光りかがやいているのだから、こわいものはない。薬をにぎってふとんに入ったぼくはぐっすり朝までねむれた。ひげ先生はやっぱり本物のサンタさんなのかもしれない‥とぼくは思った。

 そのひげ先生が、しばらくの間、入院のため病院はお休みとなった。ぼくは生まれて初めて空を見上げて神様に祈った。阪神もおうえんした。「ぼくの先生を助けてください」と。阪神が勝ったら、先生も病気に勝てる気がした‥。ぼくの願いはかなった。先生は元気になり、今もぼくの鼻を守ってくれている。ただ‥阪神はあいかわらず弱っちいままで元気がないんだけどね。

第32回「心に残る医療」体験記コンクールには、全国から医療や介護にまつわ る体験や思い出をつづった作文が寄せられました。入賞・入選した19作品を紹 介します。

主催:日本医師会、読売新聞社
後援:厚生労働省
協賛:アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)

審査委員<敬称略>
落合 恵子(作家)、竹下 景子(俳優)、ねじめ 正一(作家・詩人)、原 徳壽(厚生労働省医政局長)、外池 徹(アフラック社長)、石川 広己(日本医師会常任理事)、吉田 清久(読売新聞東京本社医療部長)

 

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