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[中高生の部・優秀賞] こころをこめて

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埴田 明里(はにだ あかり)(15) 石川県・中学校3年

 「今日から看護体験に入ってもらいます。
埴田さんは、第三病棟に入ってもらいます。がんばってください。」

 夏休み中の職場体験二日目。私は、市内の病院に職場体験に来ていた。「人の役に立つ仕事を体験したい」と思って、病院での職場体験を希望したのだ。

 一日目は、書類にはんこを押す庶務の仕事や病院内の見学をした。二日目からは、実際の看護体験をするために、それぞれ違う病棟に学校ごとに分かれて仕事をすることになった。「第三病棟ってどんなところだろう。」と

 どきどきしながら、エレベーターを降りると、重たく冷たい扉の前だった。扉を開けたとたん、看護師さんから「手を消毒して。」と言われた。まわりの空気がはりつめたような空間、集中治療室だ。テレビの中でしか見たことがない手術室もあった。けがや急病で運ばれた重症の患者さんや手術をしたばかりの人がいる病棟だ。正確には集中強化治療室(ICU)という。私は生まれて初めて呼吸器をつけた患者さんを見て息をのんだ。そして、二十人くらいの看護師さんが働いている姿がようやく目に映った。

 看護体験の最初はシーツ交換だ。床ずれを防ぐために患者さんの体を起こして、体の向きをかえるのを手伝った。二時間ごとに体位を変えるのは気力と体力がいる重労働だ。でも、看護師さんたちは嫌な顔ひとつせずにしている。「痛い。」と患者さんが顔をしかめると、看護師さんは「ごめんね。」と声をかけていた。すごいなぁ、こんなに重いのに…。

 次は、動脈から出た血を圧迫するためのガーゼ巻きをした。きれいに巻くためには、すごく力がいる。終わった後、肩が凝ってしまい、首をぐるぐる回していると、看護師さんたちに笑われてしまった。

 午後からは、ベッドから起き上がれず寝たままの患者さんの体をきれいにするのを手伝った。一週間手を洗っていないしわだらけの小さなおばあちゃんの指と指の間からは、ぼろぼろと白いあかがびっくりするほど出てきた。「うわっ汚い。」と思いながら、お湯をはった洗面器の中で自分の両手でおばあちゃんの手をこすり続けると、「ありがと。ありがと。」と、おばあちゃんが、言ってくれた。看護師さんが「きれいになったね。よかったね。」と声をかけると、「ありがと。ありがと。」と、何回も嬉しそうにうなずいてくれた。

 回復した患者さんは、次々に転棟(他の階の一般の病棟に移ること)をしていく。ベッドに寝て、管をつけたままでエレベーターに乗っていく。元気になってよかった。第三病棟から少しでも早く転棟してほしいと看護師さんたちがみんながんばっていることがわかる。手を洗ってあげたおばあちゃんも転棟することになった。おばあちゃんと一緒に第七病棟についていって、シーツごと新しいベッドに移すと、小さな子どものような軽さだった。「ありがと。ありがと。」と手をふってくれたおばあちゃん。よかったね、おばあちゃん。一緒に行った看護師さんが第七病棟の看護師さんに口早におばあちゃんの容体を伝えると、すぐにまた第三病棟に戻って、おばあちゃんのいた病室を掃除して、新しい患者さんの受け入れ準備をしていた。次から次へと休みなく看護師さんの仕事は続く。一瞬たりとも気を抜くひまはない。

 三日目。朝から患者さんの体を拭く仕事を手伝った。おじいさんの裸を見るのは最初ドキリとした。気を落ち着けて、温かいタオルで背中やお尻をふいた。看護師さんは、「今日は暑いですねえ。」「お孫さんはいらっしゃるんですか。」話しかけながらも、手を休めることはない。「もういい。もういい。」と、言う患者さんには、「あとこれだけだからがんばろうね。」と励ましている。一人ひとりの患者さんの着替えが終わるごとに、エプロンと手袋を換えなければならない。冷房がきいているのに、体を拭いたり、着替えさせたりすると、もう汗だくだ。

 おむつ交換の時は、最初、心のどこかで、

 「汚いし、嫌だなぁ。」という気持ちがあった。でも、昨日呼吸器がとれたおじいさんから

 「ありがとう。気持ちよくなったよ。」と言われて、心の底から「あぁ。してよかったなぁ。」と思った。

 「大切なのは どれだけたくさんのことをしたのではなく どれだけこころをこめたかです」オリエンテーションで聴いたマザー・テレサの言葉は、今年の夏、私が学んだ一番心に残る言葉になった。一日目の書類にはんこを押す仕事の時、曲がっていてもいいや、うつっていればといい加減に押した自分。看護の仕事は一つひとつが命に関わる大事な仕事だ。看護体験で学んだ「何事にも心をこめる」ということ、これから大人になる私にとって、とても大切な、意味のある言葉だ。

 少しずつでも、日々の生活の中で実践していけたらと思っている。

第32回「心に残る医療」体験記コンクールには、全国から医療や介護にまつわ る体験や思い出をつづった作文が寄せられました。入賞・入選した19作品を紹 介します。

主催:日本医師会、読売新聞社
後援:厚生労働省
協賛:アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)

審査委員<敬称略>
落合 恵子(作家)、竹下 景子(俳優)、ねじめ 正一(作家・詩人)、原 徳壽(厚生労働省医政局長)、外池 徹(アフラック社長)、石川 広己(日本医師会常任理事)、吉田 清久(読売新聞東京本社医療部長)

 

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