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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

医療のかかり方(1)命にかかわる病気は、救急搬送先を選ぼう

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はじめに

 医療のしくみ、社会保障の制度は、なかなか複雑です。多くの人が「常識」と思っていることにも、大きな誤解があったりします。

 このコラムでは、患者・家族や制度利用者の目線から、実際に役に立つ知識や考え方、必ずしも広く知られていない大事なポイントを、お伝えしていきます。

 時事的な問題や、医療政策・福祉政策・社会政策にかかわるテーマも取り上げます。

 どうぞ、よろしくお願いします。



救急車「とにかく早く」だけでいいのか

 まずは、生命にかかわることから始めましょう。

 家族や身近な人が、急病で倒れたときにどうするか。

 もちろん、すぐに119番へ電話をかけて、救急車を呼びますよね。そして「どこでもいいから、とにかく早く病院へ」――そんなふうに考えがちですが、それではまずい場合があります。


 救急医療機関は、次の3種類に分けられています。それぞれ役割が違います。

1次救急医療機関 休日・夜間診療所外来診療で足りる状態
2次救急医療機関 一般の救急病院入院や手術が必要な状態
3次救急医療機関 救命救急センター命にかかわる状態

 命にかかわる緊急性の高いケース(集中治療や緊急手術が必要な状態)は、具体的にはどんなものでしょうか。

 (1)心肺停止
 (2)脳卒中(脳梗塞、くも膜下出血、脳出血)
 (3)心臓や大血管の病気(心筋梗塞、狭心症、急性心不全、大動脈解離、大動脈瘤(りゅう)破裂、肺塞栓)
 (4)消化管の出血(急激な吐血・下血)
 (5)激しい腹痛(腹膜炎、消化管に穴、腸閉塞・腸重積、子宮外妊娠など)
 (6)呼吸不全
 (7)急性腎不全
 (8)重大な外傷(頭部外傷、首や背骨の骨折、手足の切断、多発外傷など)
 (9)広範囲の熱傷
 (10)毒物や薬物による中毒
 (11)重症の妊産婦
 (12)重症の子ども(脳症、ぜんそく重積発作、てんかん重積発作など)

 これらは、3次救急の病院、または「準3次」と呼ばれるレベルの高い救急病院へ運ぶべきです。あるいは脳神経外科、心臓、産科、小児科の専門病院へ運んでもらいましょう。

 なかでも患者の数が多いのは、脳と心臓の病気でしょう。

 たとえば脳梗塞は、脳の血管が詰まるので、tPAという血栓を溶かす薬を使いますが、この薬が効くタイムリミットは発症から4時間半。どの病院でも治療ができるわけではありません。くも膜下出血、脳出血は緊急手術で助かることがあり、心臓・大血管の病気も手術が必要なことが多いのですが、いずれも、体制の整った病院でないと、まともな治療はできません。

 病院に着くのが少々時間的に早くても、中途半端な病院へ運ばれたら、助かるはずの命も助からないかもしれません。後から高度な病院へ転院しても、間に合わないことが多いのです。

 救急隊は3人1組で活動します。今では、ほとんどの救急隊に救急救命士の資格を持つ隊員がいて、ある程度の病状の見立てができます。救急救命士がやってよい医療行為も増えています。

 また、2009年の消防法改正を受けて、各都道府県や政令市は「傷病者の搬送及び受入れの実施基準」を地域ごとに定め、病状に応じて搬送できる救急医療機関をリストアップしています。

 救急隊の意識も、「できるだけ早く患者を病院に届けて、医師にバトンタッチしたい」という発想から、「重症度に応じて適切な医療ができる病院へ搬送する」という考え方に変わってきました。

 それでも、すべての救急隊に、そうした意識が確立しているとは限りません。そのため、必ずしも3次や準3次の病院ではなく、なるべく近くの病院、すぐに受け入れてくれる病院へ運ぼうとすることがあるかもしれません。


3次救急医療機関を調べておこう

 だから、自宅や職場で誰かが倒れた場合に備えて、どこに3次・準3次の救急医療機関や脳・心臓などの専門病院があるのか、いちど調べておきましょう。3次・準3次の救急医療機関は、都道府県の医療部門のウェブサイトや、各都道府県が定めた地域保健医療計画のうち、救急医療対策の項目を見れば、だいたいのことは載っています。脳・心臓については、ヨミドクターの「病院の実力」のデータが役に立ちます(とくに脳卒中1狭心症・心筋梗塞)。

 急病のとき、本人は話せないことが多いので、家族や周囲の人の対応がカギを握ります。

 「3次救急の病院へ運んでもらえませんか?」「専門病院はありませんか?」といった一言が、生死を分けるかもしれません。

 地方の場合は、距離が遠くて、病院を選ぶ余地がない場合もあります。ただ、ドクターヘリや消防ヘリによる救急搬送が行われている地域も増えました。命にかかわりそうな場合は、119番した時に「ヘリは使えませんか?」と提案してみるのも、ひとつの方法です。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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