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軽度外傷性脳損傷 検査で発見困難…後遺症に労災補償

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 事故などの衝撃で脳が広範囲に傷つき、体に様々な症状が表れる「軽度外傷性脳損傷」。画像検査では異常が写りにくく、心の病と決めつけられたり、正当な補償を受けられなかったりする患者が多い。そこで厚生労働省は、軽度外傷性脳損傷を考慮した労災補償のあり方について検討を始めた。

 軽度外傷性脳損傷は、交通事故、労災事故、スポーツ外傷、暴行被害などが原因で起こる。頭部を直接強打しなくても、追突事故などで頭部が不意に、大きく揺さぶられても生じる。

 脳が損傷される過程は十分解明されていないが、脳の神経細胞同士をつなぐ「軸索」と呼ばれる情報伝達路が広範囲に損傷を受けたり断裂したりして、様々な症状が表れると考えられている。世界保健機関の研究グループは、頭部に衝撃を受けた後の意識喪失(30分以内)や、外傷後の健忘症(24時間未満)などの意識障害を軽度外傷性脳損傷の定義として挙げている。

 「軽度」とは、事故直後の意識障害の程度が軽度という意味で、その後に起こる症状が軽度というわけではない。大部分の患者は症状が一時的で、長くても1年前後で回復すると考えられてきた。しかし、重い症状が1年以上続いて仕事ができないなど、社会生活に大きな支障が出る人が少なくないことが分かってきた。

 代表的な症状は、手足のしびれや痛み、手足に力が入らない、においや味が分からない、目の見え方や耳の聞こえが悪くなる、排尿回数が増える、など。意識を失うてんかん発作や、記憶力・注意力の低下、情緒不安定などの「高次脳機能障害」が残る例も多い。

 しかし、脳の画像検査で脳損傷と診断される例は半数に満たない。高次脳機能障害が分かっても、画像に異常がなければ現在の労災の障害等級では最低の14級となり、患者は十分な補償を受けられない。

 だが、事故直後の意識障害の後、脳損傷でよく表れる様々な症状があれば、軽度外傷性脳損傷の可能性が高い。そこで整形外科医の石橋徹さんは、世界保健機関の定義に当てはまる患者に、神経の異常を診る幅広い検査を行ってきた。

 運動や知覚の機能低下、排尿や排便の異常、目や耳など脳神経の異常、記憶や理解、集中力といった認知能力の異常、などを確認する検査で、異常を認めたら眼科、耳鼻科、泌尿器科、脳神経外科などの専門医がいる医療機関で詳しい検査を勧めた。その結果、石橋さんが軽度外傷性脳損傷と確定診断した患者は1400人を超え、他の医療機関でも診断例が報告され始めた。

 こうした状況を受け、厚生労働省は画像で異常が認められない高次脳機能障害の患者に対し、軽度外傷性脳損傷の可能性を考慮し、後遺障害の程度に応じて労災の障害等級を決める方針を打ち出した。現在は複数の患者の情報を集め、障害等級の検討を行っている。

 だが、高次脳機能障害がない患者の救済は手つかずのままだ。石橋さんは「労災だけでなく、交通事故の自賠責でも患者は十分な補償を受けられない。診断法や救済策を早急に確立する必要がある」と訴える。(佐藤光展)


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