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茂木健一郎のILOVE脳

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「あの頃に戻りたい」茂木健一郎ダイエット宣言!

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 TEDの会議に参加するために訪問したカナダのバンクーバーで書いた前回のコラムで、「体重」の問題を取り上げたら、さまざまな方から、感想やご意見をいただいた。

 体重が、健康を考える上で、もっとも気になる「ポイント」になっているばかりか、美容や自己イメージという視点からも、多くの人の関心事であることがよくわかった。

 つまり、体重は、自己認識の問題だけでなく、他者から自分がどう見えるか、という問題でもあるわけである。


「太った」「やせた」は見る人の主観の問題

 私は、自分の「見かけ」については、一切気にしない、ということをモットーにしている。

 その象徴が髪の毛で、イギリスに留学している時に自分でバサッと切ってしまって以来、1、2か月に1回、お風呂場に行ってハサミでジョギジョギ切る。所要時間は2分くらい。ビートルズの『イエスタデイ』を歌っているうちに終わってしまう。

 体重もそうで、健康、という視点を除けばあまり気にしていないのだが、どうやら、周辺の人がいろいろとうるさいのである。

 前回書いたように、私の体重は「単調増加関数」で1年に約0.7キログラムくらいの割合で増加し続けている。

 要するに1か月や2か月ではそんなに変わらないはずなのであるが、久しぶりに会うと、「あれっ、太った?」「やせた?」と言う人に二分される。体重はあまり変わっていないから、つまりは見る人の主観の問題であるということになる。

 そこで、私はこう思うことにしている。「やせた」と思う人は心のやさしい人であり、「太った」と思う人は心のいじわるな人である。もっとも、もし私が相撲取りだったら、区分は逆になっていたかもしれない。(体重を増やした方が、強くなれるのだから、「太った」は褒め言葉になるだろう)


国によって異なる見た目の価値観

 俳人の黛まどかさんは、なかなか突っ込みが鋭い。毎日走っていると言ったら、「毎日走っているのに、よくその体重が維持できるわね」と一言。さらには、私のおなかのあたりを見て、「腹の上のポニョね」と。さすがは俳句を作る人だけあって、言葉の選択が巧みである(感心している場合ではないが)。

 黛さんの言葉を借りて、講演会などで、「このおなかを維持するために、毎日走るのは大変なんですよ」と言うと、みんなどっと笑う。体重をめぐる話の周りには、人の耳目を引く「言霊(ことだま)」がたくさん飛びかっているらしい。

 健康は別として、やせている方がすてきである、という思い込みは、特に女性において顕著である。スーパーモデルがやせすぎであるとしばしば社会的な問題になる。

 男の私でさえ、周囲が、ぽっちゃり、ずんぐりむっくりだ、クマのプーさんみたいだ、くまモンだ、小デブだ、いや、大デブだと口うるさいのだから、女性たちの悩みは、同情に値する。

 しかし、やせている方が魅力的だというのは一種の文化的思い込みであって、ある研究によると、西洋の文化の影響が及ばない南米の山中に住む人たちの間では、むしろやや太っている女性の方が魅力的だと考えられているのである。やせている女性の姿に接すると、むしろ病気なのではないかと考えるらしい。もっとも、このような価値観も、西洋の映画や、テレビが入ってくるようになると、「やせている方が魅力的である」という価値観へと、変わっていってしまうのだそうである。


「自分との対話」でダイエット

 さて、突然ですが、私は、自分の体重を減らすというプロジェクトに、春から取り組んでみようかと思っているのである。

 そうはいっても、ダイエット食品を摂取したり、無理な運動をする予定はない。あくまでも、「応用脳科学」。前回触れたように、「どれくらいおなかがすいた時間帯をつくることができるか」という、「自分との対話」、「メタ認知」を通して、体重を減らしていってみようかと思っているのである。

 バンクーバー滞在中、部屋には体重計があったが、1度もその上に乗らなかった。

 体重を量らなくても、どれくらいおなかが空いた時間帯があったか、どの程度満腹に食べたかを自分と対話していれば、なんとはなしに、体重の「増減」というのはわかる。

 この間、旅先ということもあって、また人とのつきあいもあって、ビールを飲んだり、ごはんを食べたりするということがやはり比較的多かった。結果として、体重はおそらく「微増」だろうなと思っていた。

 案の定、日本に帰ってきた翌日、体重計に乗ってみると、82.7キログラム。出発前よりも、0.7キログラム増えている。まあ、こんな感じだろう、と思っていたら、やっぱりそうだった。

 私が、ダイエット食品などに頼るのがイヤだな、と思うのは、つまりそこに自分の体との対話がないような気がするからである。自分自身と、「お前はどれくらいおなかがすいているのか」「どれくらい満腹になっているのか」と会話をすれば、体重の変化は、だいたいわかるような気がする。

 つまり、「おなかがすいている」という時間を、増やすことで、体重を減らすことができる。

 理屈は確かにそうだとしても、本当に実行できるかどうかは別である。果たしてどうなるか、乞うご期待。


 ところで、バンクーバー滞在中、15歳の時に、初めての外国としてバンクーバーを訪れた際にお世話になったホストファミリーに再会した。「カナダのお母さん」こと、ヴァーナ(Verna)が、家のアルバムで、当時のいろいろな写真を見せてくれた。

 私が大学生の頃、日本を訪れたヴァーナの息子たち2人、ランディー(Randy)とトレヴァー(Trevor)と一緒に納まった写真がこれである。私は一番左だが、確かにこの頃はやせていたなあと、まるでひとごとのように思う。

 流れ去った歳月を、取り戻すことなど、できるのだろうか。

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茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)
脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。

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