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胎児診断後の妊婦をケア

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障害残る?不安和らげ、産後すぐに手術 相談を継続

周産期の精神的ケアについて話す窪田さん

 おなかの赤ちゃんが病気や障害を持っているかもしれなかったら――。胎児診断の技術が進歩する中、診断を受けた母親や家族を支える取り組みが注目されている。

 小児外科医として36年の経験を持つ和歌山県立医大学長特命教授の窪田昭男さん(64)が唱えるのが、そうした母親や家族を支える精神的なケアだ。昨年11月には初の「日本周産期精神保健研究会」を開き、医療従事者だけでなく患者家族を含めて約600人が参加した。

 約5年前。窪田さんは、前任の大阪府立母子保健総合医療センターで妊娠12週の妊婦に向き合っていた。産婦人科の妊婦健診で超音波検査を受けて思いがけず「臍帯(さいたい)ヘルニア」と診断された。腹部から腸や肝臓がはみ出した臍帯ヘルニアは、おなかを閉じることができずに重篤な後遺症を残したり、感染症で死亡したりするおそれがある。

 この女性の場合、胎児の肝臓が全て出ており治療が難しいと予想された。命が助かっても重い後遺症があり、一生寝たきりの生活になるかもしれない。「家族の負担を考えると、軽々に元気になるかもしれないから頑張ってとは言えなかった」と振り返る。

 同じ症状で普通に生活をしている子もいること、一方で、長期の入院で重い障害が残った子もいることなど事実を伝えた。女性は悩んだ末に産むことに決めた。妊娠38週で帝王切開で生まれた男児はすぐに手術を受け、元気だ。

 胎児診断で赤ちゃんの病気が早く分かることで、助かる可能性のある赤ちゃんを助け、後遺症をできるだけ減らせる。例えば心臓から肺に血液を送る肺動脈と全身に送る大動脈が入れ替わる「完全大血管転位症」は救命率が格段に上がる。一方、技術が向上したことで、詳しい検査で染色体異常の可能性なども分かるようになってきた。

 「技術の進歩とともに患者さんの悩みが増えているのも事実。患者さんの決断を支えていくには、こうした診断を受けた母親や家族の心のケアが必要だと思ったのです」

 昨年の日本周産期精神保健研究会には小児科医、産婦人科医、看護師や臨床心理士だけでなく、患者家族が参加した。医療者の取り組みを患者家族に知ってもらうのが目的だった。

 研究会では、妊娠中に染色体異常が分かった母親を医師や看護師、臨床心理士がチームとなって支えた事例などが報告された。おなかの赤ちゃんに障害の可能性があると言われると、母親はすぐに受け入れられず、赤ちゃんから心が離れて治療を拒否することがある。子育てへの不安や負担も少なくない。こうした母親に多職種がかかわり、より広い視野でアドバイスしたり、出産後も相談に乗ったりして、不安を少しでも取り除くことを目指す事例などが紹介された。

 多職種の連携の仕方など課題は多い。窪田さんは「正解は一つでなく、患者さん一人一人で違う。診断結果を伝える以上、医療者は患者と家族を支える素地を作っていくことが必要です」と話す。(酒井麻里子)

胎児診断
 主に超音波をあてて胎児を診断する方法と、絨毛(じゅうもう)細胞や羊水の中の胎児の細胞を採取する染色体検査や遺伝子検査を行う方法などがある。妊婦健診で問題の可能性を指摘された場合、こうした検査を行うことが多い。
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