認知症 明日へ
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[入院支援]「迷惑行動」チームで対応
勉強会重ね 体制も整備
認知症の人が病気やけがで入院が必要になっても、受け入れが難しいケースが少なくない。
興奮や
名古屋市の名鉄病院(373床)に今年1月、糖尿病の80歳代の女性が入院した。以前、別の病院に入院したが、認知症で興奮などの症状があったため、退院を余儀なくされたという。
糖尿病や肺炎などを患った認知症の人の入院生活を支えようと、同病院は2012年10月、多職種による「認知症サポートチーム」を結成した。神経内科の宮尾真一医師と調整役の堀田晴美看護師、各病棟の看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーら17人で構成される。特に対応が難しい人を受け入れるため、病棟の一つを専用に割り当てた。
環境が変わって女性は落ち着きをなくしたため、最初の4日間は、個室で家族に付き添ってもらうことにした。大部屋に移った後も、「家に帰る」と点滴を付けたまま外に出ようとする際は、看護師が付き添った。
深夜には、他の患者の尿の管を引き抜こうとしたり、寝ている患者の肩をたたいて起こそうとしたりした。宮尾医師は睡眠薬の使用を検討。看護師が枕元にアロマオイルを置くなど工夫を重ねた。
女性が自宅に戻るにはインスリン注射が欠かせないが、本人が打つのは難しい。ソーシャルワーカーが、訪問看護を使えるようにケアマネジャーと調整し、3週間後に退院できた。
認知症の対応に慣れていない一般病院では、徘徊などへの対応が難しく、治療に時間や手間がかかりやすい。転倒のリスクを嫌って、入院に消極的な病院もある。時間をかけて対応しても、診療報酬が変わらないという事情も、病院側にはある。
国立長寿医療研究センターの鷲見幸彦部長らが08年4月、愛知県内の病院に調査したところ、21病院のうち10病院は「積極的に受け入れていない」と回答。理由は「周囲の患者に迷惑がかかる」(8病院)が最多だった。
名鉄病院でも、当初、認知症患者の受け入れに不安の声があった。看護師が暴力を受け、働く意欲を失うケースもあったからだ。
そこで同病院では、勉強会を定期的に開き、病棟看護師らが症状や介護方法を学ぶなど、病院全体で知識と対応技術の向上を図ってきた。各病棟から要請があれば、チームの看護師が駆けつける体制を整えたほか、専用病棟では夜勤の看護師を1人増やした。
堀田看護師は「最初は時間がかかっても、認知症の人の特性を踏まえた対応をすることで、患者さんが落ち着き、必要な治療を安全に受けてもらうことができる。周囲への迷惑行動もなくなる」と強調する。
昨年9月までの約1年間にチームが支援したのは約110人。医師の間からも「お陰で、
愛知県は、名鉄病院の活動を県内全域の病院11か所に広める方針だ。昨年11月から順次、同病院のメンバーらを派遣し、ノウハウを伝授する事業を始めた。
国は13年度から、一般病院の医師や看護師を対象に認知症の研修を始めた。17年度末までに、病院1か所あたり10人に相当する8万7000人の受講を目標にしている。
東京都は、病棟の看護師長ら管理職に的を絞った研修会を3月に開いた。都の研修事業に携わる老人看護専門看護師の桑田美代子さん(青梅慶友病院)は「基礎的な知識や対応を十分に学ぶ機会のない看護師が多い。疾患の治療だけでなく、認知症の人を理解し、生活を支える視点を持つことが欠かせない」と指摘する。
病気を抱えた認知症の人は急増する見通しだ。鷲見部長は「身近な一般病院で十分な入院治療が受けられる体制を早急に整えることが重要だ」と話している。(野口博文、写真も)
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