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家族介護 悩む若者を支援

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精神的に孤立、進学断念

祖母を介護していた頃の介護日誌を手にする秋保さん。「若い介護者にはもっと情報が必要」と話す(仙台市内で)

 10、20代の若者が家族を介護するケースが最近目立っている。相談相手を見つけられないまま孤立したり、進学をあきらめたりすることもある。若い介護者をどう支えるかが大きな課題だ。

 仙台市在住の秋保(あきほ)秀樹さん(25)は、16歳から22歳まで、6年にわたって認知症の祖母を介護した。当時は、祖母と母の3人暮らし。母は生活を支えるために働きに出ていた。

 認知症の症状が進んだ祖母は、しばしば大声を上げることもあった。ホームヘルパーも頼んでいたが、祖母の体調がよくないときは、秋保さんが高校を休んで付き添った。ケアマネジャーは、施設への入所を勧めたが、祖母はデイサービス施設に通うことさえも嫌がった。

 睡眠不足で遅刻が増え、授業中によく居眠りをしていたという秋保さん。「一番つらかったのは、同世代の相談相手がいなかったことです」と打ち明ける。級友に介護の話をしても、悩みを理解してもらえない。教師に相談しても、解決策は返ってこない。

 精神的にも体力的にも限界を感じ、高校2年生の3月に休学した。自分が大学に行けば、昼間に祖母の面倒をみる人がいなくなると考え、進学を断念。高校はそのまま退学してしまった。祖母は3年前に亡くなった。

 最近、家族介護者を支援する団体や研究者の間で、秋保さんのような若い介護者の存在が注目されるようになった。成蹊大専任講師(社会学)の渋谷智子さんが昨年、医療ソーシャルワーカーら402人に尋ねた調査では、約3人に1人が、18歳以下の子どもが家族をケアしているケースを経験していた。

 渋谷さんは、「18歳以下で家族を介護することのすべてが悪いということではない」という。家族の絆が深まったり、子ども自身が成長したりというプラスの影響もあるからだ。

 しかし実際は、過大な責任を負うことになる場合が少なくない。友人と過ごしたり、勉強したりする時間が奪われ、進路選択の幅が狭まることもある。同世代の友人には「別世界の悩み」なので、相談相手が見つけられず、精神的に孤立するケースもある。

 「在宅介護する家庭が増える一方で、これまで介護の主な担い手だった専業主婦は減っている。今後、こうした若い介護者は構造的に増えていくだろう」と渋谷さんは指摘する。

 専門誌「月刊ケアマネジメント」に2011年から、若い介護者へのインタビュー記事を連載しているライターの岡崎杏里さんは、「介護のために社会に出るのが遅れ、就職が困難になった人もいる。女性の介護者の中には、子どもが産める年齢のうちに結婚できるのか不安を抱えている人もいる」と話す。

 岡崎さん自身も、20代前半から両親の介護と看病を続けているという。「介護で自分の人生を狂わされたと思っている人が少なくありません。若い介護者をどうサポートするかが、これからの大きな課題になる」と話す。

同世代で情報交換の動き ネットを通じグループ

イギリスのヤングケアラーの実情を紹介するシンポジウムが開かれた(2月、東京都内で)

 若い介護者同士が情報交換する動きも始まっている。

 ケアラー(介護者)の支援に取り組む民間団体「日本ケアラー連盟」(東京)が昨秋、若い介護者が抱える課題について考える会を東京都内で開いたところ、20、30代の介護者らが全国各地から駆けつけた。

 会をきっかけに、SNSを通じて連絡を取り合うグループが作られ、現在、約25人が参加している。メンバーの一人で埼玉県草加市議の井手大喜さん(28)も、10代で父親の介護を経験した。「お互いの存在を知り、情報を共有できるようになったことは、大きな一歩」と話す。

 「若年認知症ねりまの会MARINE」(東京)は2012年12月から、通常の家族会とは別に、子ども世代の集い「まりねっこ」を3か月に1回のペースで開く。事務局長の田中悠美子さんによると、65歳未満で発症する若年認知症は、配偶者が介護するケースが多いが、10代の子どもが介護することもある。やはり、同世代の相談相手がいないことが大きな悩みだという。

 「若年認知症サポートセンター」(東京)は昨年3月、子ども向けの冊子「あなたに伝えたいたいせつなこと」を作成した。認知症の説明や病気の親への接し方、相談窓口の情報なども掲載している。

 イギリスでは、1980年代末から、18歳未満の介護者を「ヤングケアラー」と名付け、支援を行っている。「ケア」の中身は、高齢者介護だけではなく、病気や障害を持った親きょうだいの世話なども含む。同国の支援団体「子ども協会」のヘレン・リードビターさんが先月来日し、東京都内のシンポジウムに出席して実情を報告した。

 同国の2011年の調査によると、18歳未満人口の2%に当たる17万人のヤングケアラーがいるという。

 重視しているのは、家族の中にヤングケアラーがいないかどうかを、福祉の専門職が確認すること。もしヤングケアラーが見つかれば、負担が過重になっていないか、再検討される。学校に対しても、教師がヤングケアラーへの理解を深めることができるよう情報を提供。ヤングケアラーを支援する組織は同国各地にあり、仲間同士が交流できるという。

 日本ケアラー連盟事務局の野手香織さんは、「若い介護者は、社会とのつながりがまだ少なく、自分から助けを求めることができない。周囲が課題を理解し、積極的に支える態勢作りが必要なのではないか」と話す。(森谷直子)

 SNS=social networking service

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