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[シカゴから]副作用報道のバランスとは

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 昨年末、避妊などに使う低用量ピルを服用して血栓症で11人が死亡したとの報道を目にしました。2004年から749件の副作用が報告されたとのことですが、この種の報道はしばしば科学的ではありません。なぜならば、この数字の持つ意味が不明だからです。

 死亡に至った例があったことは不幸なことですし、副作用の注意喚起をすることは重篤な副作用を回避するために必要です。しかしこの数字だけでは、どの程度の割合で副作用が出たのか全然わかりません。1000人中11人か、100万人中11人かによって、ピルを服用する問題の大きさがまったく異なります。また、薬を服用していない同年代の女性でどの程度の割合で血栓症が発生しているのかといった比較情報も、重大性を判断するうえで必須です。

 医療に限らず、交通事故の報道でも同じです。事故で亡くなった人ではシートベルト非着用者が着用者より多いので、シートベルトをした方がより安全だとの発表がありました。着用する方が安全なのは確実でしょうが、単に死亡数の比較だけでは着用する方が安全だという結論は導けません。なぜなら、車を運転する人の中でシートベルトをする人が少なければ、死亡率が逆転することもあるからです。分母のない分子だけの比較は科学的ではありません。

 ピルの血栓症などの副作用は、以前から知られていたにもかかわらず、多年にわたって処方されているのはどうしてでしょうか? 予期せぬ結果で、人工妊娠中絶に至るのを防ぐためです。中絶は新しい生命を奪うだけでなく、中絶に伴う種々の合併症によって大きな不幸を招きかねません。

 副作用の報道が社会に与える影響を考えた上での、バランスのある報道が求められます。(シカゴ大教授 中村祐輔)


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