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PTSDに効果 持続エクスポージャー療法

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「傷」を直視 乗り越える

 災害や暴力などで心の傷を負って発症するPTSD(心的外傷後ストレス障害)。治療効果が証明された研究が最も多いのが「持続エクスポージャー療法(PE)」だ。

 東京都の20歳代の無職A子さんは、東北地方に住んでいた2010年5月頃、当時勤務していた会社の上司に「引っ越しの手伝いに来てほしい」と自宅に呼ばれ、レイプされた。

 以来、眠れなくなり、恐怖体験の場面がよみがえる「フラッシュバック」に何度も襲われた。男性を見ると上司を連想し、怖くて外出できない。自分は生きる価値がないと考え、何度も「死にたい」と思った。

 翌11年3月、東日本大震災の津波が自宅をのみ込んだ。高台に避難して難を逃れたが、波が引いた後の荒涼とした光景に身がすくみ、震災の恐怖も心の傷(トラウマ)に加わった。

 同年8月、仕事が見つかり上京。症状が続いたため、知人の紹介で昨年1月、東京都小平市の国立精神・神経医療研究センター成人精神保健研究部長の精神科医、金吉晴さんを受診、PEを受けることにした。

 PEは、患者が、避けていたトラウマ記憶にさらされる(曝露(ばくろ)=エクスポージャー)作業を繰り返し、治療者と話し合いを重ねて、恐怖を乗り越える。治療は週1回で1回90分ほど。二つの曝露法が中心だ。

 一つは、実生活の中で避けていたことに向き合う「現実エクスポージャー」。これによって「慣れ」が生まれて不安が減る。

 A子さんの場合、上司に似た屈強な男性の写真を、30分間見続けた。人混みも怖かったため、駅前まで30分歩いたり、スーパーで30分、買い物をしたり。毎週こうした「宿題」が出され、その時の不安が100点中何点かを記録する。最初は70点だった不安も、回を重ねるごとに50点、30点と減っていった。

 もう一つの曝露法は、トラウマ体験を話す「想像エクスポージャー」。A子さんは毎週の治療で40~50分間、レイプされた時の状況を思い出しながら話した。体験を話す度に、金さんに「考え方や感じ方はどう変わったでしょうか」などと質問され、話し合う。その時の自分の話を録音し、自宅で聴くことも宿題だ。

 最初は怖くて、泣くこともあった。「こんなことを話すぐらいなら死んだ方がまし」とさえ考え、治療を受けた日は落ち込んだ。

 しかし話し合いの中で、それらはトラウマを受けた後の自然な感情だと理解でき、その感情を治療の中で受け止めてもらうことで落ち着いた。これを繰り返すうちに、体験を冷静に話せるようになった。

 治療6回目には、▽トラウマ体験を話してもそれは記憶に過ぎず、また怖いことが起きるわけではない▽悪いのは自分じゃない――と理解し、恐怖を感じなくなった。震災の恐怖も同様に治療し、元気になった。

 「治療を受けて本当に良かった。被災してトラウマに苦しんでいる人もこの治療を受けられるといい」とA子さん。金さんは「国内には治療できる専門家が少ないため、養成して普及に努めたい」と話している。(山口博弥)

 PTSD=Post Traumatic Stress Disorder

持続エクスポージャー療法(PE=Prolonged Exposure therapy)
  二つのエクスポージャーのほかに、トラウマや治療法の意味を学ぶ「心理教育」と、気持ちを落ち着けたい時の呼吸法「呼吸再調整法」の練習からなる。日本では昨年、金さんらがこの治療法の普及を目指す組織「PE Japan」(http://pe-jp.org/)を設立した。
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