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一緒に学ぼう 社会保障のABC

yomiDr.記事アーカイブ

国民皆保険・皆年金(23)処方箋の続き

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 前回、年金保険や医療保険の適用の点で、正社員と非正規労働者の間には格差があることをご紹介しました。これに関連して、年金保険制度で、「4分の3」ルールがあることを説明しましたが、この4分の3ルールは医療保険にも適用されています。

 つまり、パートなどで働く非正規労働者の場合、働いている時間や日数が正社員のおおむね4分の3以上あれば正社員と同じ健康保険に加入できますが、それより少ないと、国民健康保険に加入することになります。国民健康保険の保険料は、負担能力に応じて課される「応能分」と、受益に応じて等しく課される「応益分」とがあり、応益分は所得の有無にかかわらず発生するため、低所得者には負担が重いといえます。もともと、国民健康保険の加入者には低所得者が多いことなどもあり、保険料の滞納が目立ち、滞納している人の中には、病気になっても医療機関を受診しないというケースも見受けられます。

 正社員と同じ被用者でありながら、厚生年金あるいは健康保険といった被用者保険に加入できない非正規労働者の保障を強化し、社会保険における格差をなくそうと、新たな基準を設ける法律(年金機能強化法)が、2012年8月に成立しました。働く時間や日数が正社員のおおむね4分の3以上ある人は、被用者保険に適用することとしたほか、4分の3未満については、次の全ての条件にあてはまる人の場合は、被用者保険に加入できるようにするものです。


・週20時間以上働いている
・月額の賃金が8万8000円以上ある(年収で106万円以上)
・勤務期間が1年以上ある
・従業員が501人以上の企業で働いている
・学生は適用除外



 適用拡大は2016年10月から施行される予定で、新たに約25万人が被用者保険の対象となる見込みです。政府の説明では、総じて年金や医療の保険料軽減や給付の改善が見込まれ、拡大によるメリットは大きいとされています。ただし、週の労働時間が20~30時間の非正規労働者は約400万人いるといわれるだけに、これで十分とはいえません。増加を続ける非正規労働者の生活保障を考えれば、さらなる適用拡大が必要だといえます。

 「低賃金」「低待遇」という非正規労働のあり方が、社会保障制度に大きな影響を与えていることは確かで、国民皆保険・皆年金の良さを生かすためには、雇う側も、働く側も巻き込んだ「働き方の見直し」が不可欠でしょう。

 また、社会保障制度が揺らいでいる理由として、不安定化する雇用のほか、少子化や高齢化、長寿化といった人口的な要素や、物価や賃金などの経済的な要素も大きいことを以前、指摘しました。制度の揺らぎの要因を見てみれば、年金保険制度一つ、あるいは医療保険制度一つを手直しすれば済む問題ではないということがよくわかると思います。むしろ、年金や医療などの個別の制度をいじくり回すより、まず、「安定した職に就ける社会をつくる」「子供を産み育てやすい社会をつくる」「能力と意欲があれば高齢であろうが障害があろうが働いたりボランティアしたりできる社会をつくる」「景気をよくし、新しい産業を育成し、賃上げを目指す」といった政策が重要なことがわかります。

 もちろん、個々の制度の見直しも必要です。ですが、雇用や子育て支援のあり方を見直し、経済を良くする努力を続けることが、安心できる社会保障制度を再構築するためには不可欠だと思います。

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inokuma

猪熊律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社社会保障部デスク。 1985年、読売新聞社に入社。地方部、生活情報部などを経て、2000年から社会保障部に在籍。1998~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞海外留学生として、米スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム「ジョン・エス・ナイト・フェローシップ」に留学。2009年、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(社会保障法)。好きな物:ワイン、映画、旅、歌など。著書に「社会保障のグランドデザイン~記者の眼でとらえた『生活保障』構築への新たな視点」(中央法規)など。

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