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スポーツによる脳損傷予防…脳震とう起こしたら休息
日本脳神経外科学会は、スポーツによる脳損傷を予防するための提言を発表した。学校現場などで柔道による死亡事故や重い後遺症が残るケースが相次いだことを受けたものだ。脳震とうを繰り返さないことが重要だとし、注意を呼びかけている。
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脳震とうは、外部から衝撃が加わり、軟らかい脳が頭蓋骨の中で揺さぶられて起こる。気を失ったり記憶喪失を起こしたりといった症状のほか、頭痛がある、ぼーっとする、興奮状態になる、眠れない――などの症状が出た場合も、脳震とうを起こしている可能性が高い。
日本大医学部(東京都板橋区)脳神経外科教授の片山容一さんは「脳が揺さぶられることで、脳内の血管が破れるなど組織が損傷している可能性がある」と説明する。細かい血管が破れて血流が悪くなると、脳が腫れ、気分が悪くなったり頭痛が起きたりする。
スポーツで脳震とうを起こした場合、こうした症状は短時間で消えることが多い。ただ、そのまま競技や練習を続けると、症状が悪化することが少なくない。損傷した脳の組織が完全に修復されない状態で再び脳に衝撃が加わるためだ。
中でも命にかかわるのが、急性硬膜下血腫だ。脳を覆う硬膜と脳をつなぐ「架橋静脈」という血管が、衝撃によって過度に引っ張られて切れ、出血する。血腫(血の塊)が脳を圧迫し、脳の組織が損傷する。血腫を取り除く手術を行うが、半数以上は死亡し、命が助かっても重い障害が残ることが少なくない。
名古屋大准教授(教育社会学)の内田良さんの調査によると、中高生が柔道により学校で死亡した事故は、12年度までの約30年間に118件起きている。このうち76件が、急性硬膜下血腫などの頭部外傷によるものだった。
こうした状況を受け、日本脳神経外科学会は昨年12月、脳損傷の予防のための提言を発表し、予防策として「脳震とうを起こしたら、直ちに競技や練習への参加はやめるべきだ」と注意喚起している。
医療機関を受診し、必要に応じてMRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピューター断層撮影法)を使った検査を受ける。異常がなくても十分休息を取り、競技や練習への復帰は、脳震とうの症状が完全に消えてからにする。
同学会は、復帰に向けた手順も示した。最初はウオーキングや自転車こぎといった軽い有酸素運動から始める。徐々に負荷を強め、スポーツに関連した運動(ランニングなど頭への衝撃がない運動)に移る。
次に、接触プレーのない運動や練習を始め、その後、医師が問題ないと判断すれば、競技へ復帰できる。本格的に復帰するまで、少なくとも1週間はかける。
片山さんは「脳震とうに対する治療法はなく、注意深く様子をみるしかない。急性硬膜下血腫などの重い症状を起こした場合は、回復しても、なるべくスポーツの競技や練習に復帰することは控えてほしい」と話している。(利根川昌紀)
※ MRI=Magnetic Resonance Imaging |