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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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五輪後に考える天然痘テロの脅威

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 ソチ冬季オリンピック、終わりましたね。予想以上に頑張れた人、ちょっと残念だった人、いろいろですね。でもオリンピックに参加できただけでもすごいですね。そしてそれを支えた人もたくさんいますね。みなさんに「お疲れ様」と言いたいですね。

 テロが起こらなくて本当によかったと思っています。ある国家がテロまがいの行為を行う危惧も拭えないですし、国家の中には不満を抱えているグループもいるでしょうから、テロという手段を選ぶ可能性も否定できませんね。

 僕が一番恐れるテロ行為は、核爆弾または原子力発電所の爆破ですね。ともかく放射線の恐ろしさは「今」では終わらないことですね。子供や孫の世代にも影響が残ると言うことです。そしてどの程度の放射線が人体に影響があるのかは、実は長期的にははっきりとはわかっていないことです。


感染すると死亡率40%

 もうひとつ心配なのは生物テロです。天然とうが心配ですね。天然痘は感染すると死亡率が40%と言われ、生き残ってもあばたが残ります。「あばたもえくぼ」と言われるあばたで、天然痘の痕なのです。

 天然痘は医療の歴史でもっともうまくいった撲滅の成功事例です。天然痘のワクチンは種痘と言われます。天然痘は一度かかると二度と罹らないことが経験的に知られていました。そこで人の天然痘のうみを健康な人に傷を付けて擦り込むと軽い天然痘になり、その後天然痘に罹らないということははるか昔からわかっていて、人痘と呼ばれていました。しかし、人痘の死亡率は数%あると言われていました。つまり感染したときの40%を選ぶか、予防の危険の数%を選ぶかという選択肢になります。その選択は難しいですね。


80年に根絶、でもウイルスは研究室に

 そしてエドワード・ジェンナーはあることに気が付きました。牛に人の天然痘に似た牛痘という病気があります。これも人に感染しますが、軽く発症して治ります。そしてこの牛痘に罹った人はその後天然痘には罹らないのです。そこで、ジェンナーは1798年に牛痘の膿を人に打ちました。これが人類最初のワクチンです。そしてもっとも成功したワクチンなのです。種痘と呼ばれました。そして世界中で種痘は行われました。僕の腕にも種痘の痕はありますよ。そして、WHO(世界保健機構)は1980年に天然痘の根絶宣言をしました。すごいですね。死亡率40%の世界中を震撼させ続けた天然痘が退治できたのです。

 でも、天然痘のウイルスは抹消されていません。実験室の冷蔵庫に眠っているのです。アメリカにはありますよ。そしてソ連が崩壊し、ソ連が保管していた天然痘ウイルスは世界中に散らばったとも言われています。天然痘のウイルスは凍結に強いので、僕の研究室でも保管可能なのですよ。つまり世界中に天然痘のウイルスが残っている可能性が高いのです。恐ろしいでしょう。


種痘をしていない世代は「いちコロ」?

 このウイルスが、生物テロとしてかれると、免疫がまったくない人々は40%を遙かに超える死亡率で亡くなります。ワクチンがない時代、多くの人が天然痘に罹って、免疫を獲得した人が生き残った時代の死亡率が40%と言われています。だから、今は40%を遙かに超える危険になるのです。そして交通手段の進歩で人の行き来は世界中で昔と比べると無限大ですから、天然痘はあっという間に拡散するのです。

 幸い?僕の世代は、種痘を受けています。種痘のワクチン効果は素晴らしく一度受ければ終生80%の人で血液中に抗体が観察されるそうです。抗体は特定の病気に対するミサイルみたいなものです。僕は種痘を受けているので、天然痘が生物テロとして使用されても種痘のお陰で生き残るかも知れません。しかし1970年代後半からは種痘接種は日本では行われていません。うちの娘が天然痘の生物テロにあえば、いちコロでしょう。種痘してませんから。

 僕は将来の生物テロに対抗するために、こんな素晴らしいワクチンを接種するという選択肢が、今もあって良いのではと思っています。インフルエンザワクチンを今年は我が家は打ちませんでしたが、種痘の接種が可能なら娘に受けてもらいますよ。娘のことを思っての今の僕の考えです。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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