文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

宋美玄のママライフ実況中継

コラム

命の大切さ、若者に教えることができるか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
ブランコで遊ぶ娘です

 遅ればせながら娘の誕生日プレゼントが到着しました。アンパンマンのジャングルジムと滑り台とブランコのセットです。かなり大きいので我が家のリビングは窮屈になってしまいましたが、天気の悪い日でも体を動かしてもらえるのでいいと思いました。ブランコを上手にゆらゆらしている姿はすっかり子供です。

精神科と産婦人科、本質は同じ?

 先日、リストカットなどの自傷行為や薬物依存をする若者を診ておられる精神科医の松本俊彦先生の講演をききました。一見産婦人科と関係ないように思える分野かもしれませんが、実は共通する部分が非常に多いことが分かり、むしろ本質は同じであると感じました。

 自傷行為をする若者には、自尊心が低い、摂食障害が多いなどの他にセックス経験が多く避妊をしていないという特徴があるそうです。自傷行為は決して他者の気を引くためのアピールではなく、心につらいものを抱えた人が、自傷行為によってエンドルフィンなどの脳内麻薬が出ることで一時的に苦痛から解放されるために行うものです。麻薬と同じで、同じ量だと効かなくなるため、どんどん傷つける量が増えていくとのことでした。

 自傷行為をやめさせるためには、「傷つけちゃだめ」「もうしないって私と約束して」と言ってもだめで、結局その人の抱えているつらさを解決しなければいけません。「ハッピーな人は自傷行為をしない」との言葉に、深くうなずきました。「親からもらった体を傷つけるようなことをしてはいけない」と自傷行為を道徳の観点から否定しても、その人は心を閉ざしてしまうだけなのです。

 産婦人科医や助産師が担うことの多い「命の教育」にも同じ危うさがあります。「命は大切だ」「あなたは望まれて生まれてきた」と言っても、そもそも育てられる過程で自分は他者にとって大切な存在だということが実感出来ていない若者からすれば、「みんなは大切な存在なんだ、でも自分は違う」と余計に追いつめられてしまうそうです。赤ちゃんを実際に抱っこさせるという命の教育もあるようですが、虐待された経験のある人は大事にされている赤ちゃんを見ると腹が立つことがあるのだと言います。

自分を大切に出来ない若者、友達の助けが必要

 結局、そういった命の教育で「命は大切なんだ」と思える人は、もともと大切に育てられて自分を大事に出来ている人で、1~2割いると思われるそうでない人が置いてけぼりになってしまうのです。本当はその1~2割の人にこそ、届けなくてはいけないにも関わらず、です。

 生きづらさを抱えて自分を大切に出来ていない若者は、今まで裏切られてきた経験から大人というものを信用していないことが多いので、年の近い友達がどれだけそれに気付き、力になれるかによって大きく違うとのことでした。命の教育は、メルヘンチックなものではなく、残り8~9割の命を大切に出来る若者たちに、「周りにそういう友達がいたら力になって信頼出来る大人につないであげてほしい」ということを伝えるものとなるべきではないかというお話に、私も深くうなずきました。

 講演の後に、今まで命の教育を行ってきた方からの困惑の声があがりましたが、「教育は子どものためであって、教育を行う者の存在意義や自己満足のためではないのでは」と発言してしまいました。

 産婦人科では、性感染症や望まぬ妊娠のために若い女性がよく受診します。実用的な体の情報だけでなく、どうすれば出会った若者たちが自分を大切にすることを手伝えるか。時間の制約もある中、簡単なことではないと思いますが、つながりが大事という松本先生の言葉を胸に、現場でがんばってみたいと思います。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

son_n_400

宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

宋美玄のママライフ実況中継の一覧を見る

8件 のコメント

コメントを書く

子宮がん検診、初めて受けました

元ひきこもり

半年前の記事ですが、「逆の立場の啓もうも」という意見に共感し、コメントします。今日初めて子宮けいがんの検診を受けました。検査自体は、上手な医師だ...

半年前の記事ですが、「逆の立場の啓もうも」という意見に共感し、コメントします。今日初めて子宮けいがんの検診を受けました。検査自体は、上手な医師だったのかほぼ痛みもなく、あっと言う間に終わりました。しかし、検診前の問診が少しつらかったです。
私は元ひきこもりで人が怖く、20代後半になりましたが性交渉の経験がありません。問診ではフローチャートを見せられ、「出産経験の有無」「性交渉経験の有無」をたどるよう指示を受けました。性交渉経験のない場合、痛みや出血が強く出る場合があるので、当検診センターではなく医療機関の受診を勧めるとの記載があり、私はこれに該当しました。しかし、そう答えたところ、担当者が「えっ?」とうろたえた反応で、「この年齢になって経験がないの?」と言われたような印象を受けました。結局、医療機関と内容は同じとのことで検査を受けました。だったらなぜ聞くのか、諸注意を説明した上で、受診の意思を聞けばいいのにと思いました…。
「性交渉経験があって当然」という意識だと、私のような人間には、ますます婦人科の敷居が高くなります。

つづきを読む

違反報告

親でなくても。

yy

かなしいです。どのように子育てしたら自分を肯定し、自分自身を大切に生きていけるようになるのでしょうか?そのこのところを知りたいと思います。親でな...

かなしいです。
どのように子育てしたら自分を肯定し、自分自身を大切に生きていけるようになるのでしょうか?
そのこのところを知りたいと思います。

親でなくても子供の心に寄り添って大切に慈しんでくれる人が回りにいれば救われるのでは?
祖父母、保母さん、幼稚園の先生、学校の先生などが寄り添ってあげられれば子供の心は救われるのではないでしょうか?

つづきを読む

違反報告

いうのはやさしい

タツマキ

タイトルに書いてしまった事は本音です。しかし、大切な内容の講演だと強く思います。「誰かのために」とか「力になってあげる」とか、そういう事をしよう...

タイトルに書いてしまった事は本音です。
しかし、大切な内容の講演だと強く思います。

「誰かのために」とか「力になってあげる」とか、
そういう事をしようとしても、偽善者扱いされたりして
普通に出来ない、やり辛い世の中です。

また、生き辛さを抱えている人達(子供も大人も)を
発達障害という病気にしてしまう傾向も問題だと思います。
(脳の基質異常は別ですが)
向精神薬を飲めば、益々生き辛くなるだけですから。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事