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緩やかな「つながり」構築 マンションで祭りを開く

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 都会では、近所付き合いが希薄と言われる。自宅で死亡したまま気づかれない「孤立死」が、しばしば問題になる。

 そんななか、見ず知らずの人々が暮らす東京都心のマンションで、住民が手作りの「祭り」を定期的に催し、絆を深めようとしている。

 2020年東京五輪に向けて改修される国立競技場まで歩いて5分――。東京都渋谷区のあるマンションでは12年から、毎年6月と11月、住民が食べ物、飲み物を持ち寄り、「隣人祭り」と称するパーティーを開いている。隣人祭りの本場・フランスではアパート中庭で開かれることが多いが、このマンションでは約20平方メートルの共用エントランスホールが会場だ。

 発起人は12年前から住む1級建築士、神向寺(じんこうじ)信二さん(62)。20歳代の頃、フランスで暮らし、「日本でも隣人祭りみたいなことができたら面白そう」と考えていたが、「シャイな日本人には難しいかな」とも思っていた。

 ところが、11年秋、近くのマンションで、住民主催の祭りが開かれることを知り、飛び入り参加。住民やマンションで働く人が交流する様子を見て「できるじゃないか」と思い直した。その年は東日本大震災もあり、「何かあったら最初に助け合わざるを得ないのが近隣住民」と、地域の絆の大切さを切実に感じていた。

 早速、同年11月に開かれたマンション管理組合の総会で「親睦会(隣人祭り)を開きませんか」と提案した。戸惑う人がいる可能性も考え、全27戸に「開催に賛成か反対か」「どんな条件なら可能か」を問うアンケートをし、問い合わせ先に自分のメールアドレスと携帯電話番号を記した。

 12戸から回答があり、反対はゼロ。「禁煙なら参加したい」「エントランスを汚したくない」などの意見が寄せられた。

 要望も踏まえ、祭りは禁煙とし、床に敷く大きなビニールシートを用意。面倒な金銭の授受は一切なしで、食べ物や飲み物、イスなどは持ち寄りとした。

 参加自由。押しつけがましさのない、緩やかな「つながり」が理想だ。だが、「エントランスが会場だと、参加する気なく通った人にも『一杯どうですか』と、さりげなく声をかけられる」と神向寺さん。これまで4回開いたが、思いのほか盛り上がり、大人から子供まで、入居世帯の半分程度が参加しているという。

 隣人祭りに、どんな効果があるのか。住民の絵本作家、石川浩二さん(50)は「ご近所の気心が知れると楽しいし、旅行で家を空ける時も安心」と話す。育児に関する意見交換や、おすそ分けなどの交流も広がる。神向寺さんは「子供が騒いでいても『○○ちゃんか』と思えば、トラブルになりにくい。住民同士が気にかけ合えば、見守りにもなる」と考える。

 三菱総研の主席研究員、松田智生さんは「都市部の孤立など超高齢社会の課題は、行政だけでは解消できない。住民の共助につながる隣人祭りの役割は大きい」と指摘する。

 ただ、回を重ね、見えてきた課題もある。神向寺さんは「参加者が固定化する傾向がある。参加したことがない住民に『輪に入りにくい』『派閥みたい』と思われない雰囲気作りを心がけないと……」と考えている。(高橋圭史)

隣人祭り
 独居高齢者の孤立死をきっかけに、パリで1999年に始まった運動。アパートの中庭などに近隣住民が集まり、パーティーを開く。欧州では行政も支援している。世界の30を超える国・地域に広がっているという。
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