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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

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「呼吸停止」が別れの時ではない

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 人の最期はどうなるでしょうか?

 人の死の三徴候は「瞳孔散大+対光反射消失」「呼吸停止」「心停止」とされています。

 このうち一般の方にも一番わかりやすいのは「呼吸停止」です。

 だいたい亡くなる数十分前くらいまでは呼吸が速いのが特徴です。呼吸回数を増やして、生命を維持しようとしています。しかし意識は多くの場合低下していますから、呼吸回数が多くても苦しいと言うわけではないです。

 数十分前もしくは数分前になると、突然呼吸が変わります。

 それまでは速く浅い呼吸だったのが、急にゆっくりになるのです。なお状態が悪い患者さんはよく無呼吸といって呼吸が止まることがありますが、これは数十秒くらいするとまた呼吸が再開し、むしろその後しばらくは速めに呼吸し、また無呼吸になるというのを繰り返しますが、その「無呼吸」とは異なり、継続的にすごくゆっくりになるのが死の直前の呼吸です。

 その最後の呼吸は、下顎を大きく上げることから「下顎呼吸」と呼ばれます。下顎呼吸を数分続けた後、最後の呼吸は人によってそれぞれの様態がありますが、目をわずかに開いたり、ひときわ大きく下顎を上げたりしたのち、呼吸が停止します。

 ているご家族からすれば、明らかに呼吸が止まったのがわかりますから、この際に「亡くなった」と感じることが多いようです。

 けれどもほとんどの場合、呼吸停止は心停止に先行します。呼吸停止が起きたのち、数分で心臓も止まります。その時までは心臓はかすかに動いています。

 心臓が止まった後、医師が死の三徴候を確認し、その方は「亡くなった」ということになります。

 しかし重要なのは、これはあくまで便宜的な区切りであって、全ての細胞がその時間で死んでいるということではないということは覚えておくと良いでしょう。


反応がなくても…最期まで聞こえている

 人の耳は最期まで聞こえていると言います。ある患者さんは胃潰瘍からの大吐血で窒息し、心停止・呼吸停止を来たしましたがその後完全復活しました。彼は何と意識レベルが一番悪い状態で私と指導医が交わした会話を覚えていました。もちろんその際は何の反応もありませんでしたが、後日「聞こえていた」と私たちに伝えたのです。彼のように死の直前にあった人でも声は聞こえていたわけですから、今死にゆく方々も、たとえ反応がなかったとしても声は聞こえている可能性があると考えられます。

 また死の三徴候を確認した時点でも、人の全ての細胞が死んでいないことを考えれば、たとえ呼吸停止・心停止を来たし、ピクリともその方が動かなくても、声はまだ聞こえている可能性もあると思います。

 ただ、見た目には呼吸が止まっていると、亡くなったと思いがちですし、反応もなく動きもしなければ、一般の方も「もう声は届かない」と思いがちなのはよくわかります。それが悲しいことを何度も引き起こして来ました。


見守る側にできる最後のこと

 ある70代の患者さんの奥さんは、呼吸停止の場に居合わせませんでした。患者さんのそばにいた娘さんは携帯電話を患者さんの耳に当て、奥さんはそこを通して、患者さんに必死に声をかけ続けました。患者さんは最初は呼吸があったのですが、奥さんが到着したときにはすでに呼吸は止まってしまっていました。

 到着した奥さんは激しく怒りました。

 「死んでるじゃないの!うそをつかないでください」

 呼吸停止している患者さんは「完全に死んでしまった」と思ったようなのです。

 「死に目に間に合わなかった!」

 奥さんは崩れ落ちました。私たちも「声はきっと届いていたと思われること」をお伝えしましたが、奥さんはそれを気休めだと感じたようでした。

 私は呼吸停止をしている患者さんをみて、「死に目に会えなかった」とおっしゃる人の少なからずが、「ちゃんと間に合っている、会えている」と思います。まだ聞こえているかもしれません。嘆くより先に、きちんと声をかけてあげてください。

 一般の方は「呼吸停止」に、医療者も時に「三徴候」にこだわり過ぎていると感じます。それはあくまで便宜上のものなのです。聞こえている可能性を考え、もし皆さんがそんな場に居合わせたら、逝く方に穏やかに優しく声をかけてあげてください。体温が伝わるように触ってあげてください。温かい最期の場所を提供してあげてください。それが見守る側に最後にできる、大切なことなのです。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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