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一緒に学ぼう 社会保障のABC

yomiDr.記事アーカイブ

国民皆保険・皆年金(22)処方箋

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 揺らいでいるといわれる日本の社会保障制度。では、どうしたらよいのでしょうか。揺らぎの要因として最も大きいと思われる「不安定化した雇用」の問題について、見ていきたいと思います。

 かつて、日本は、「雇用の優等生」と言われてきました。先進国の中でも、失業率が低かったからです。それを可能にしたのが、「正社員」「終身雇用」「年功序列型賃金」といった日本独特の雇用システムでした。

 しかし、今や、雇用期限がなくフルタイムで働く、いわゆる正社員は当たり前の存在ではなくなりました。雇用されて働く人のうち、4割近くが非正規労働者、つまり、パートやアルバイト、契約社員、派遣社員などになったのです。

 多様で柔軟な働き方を実現する上で、「非正規」という働き方自体が悪いということではないと思います。問題なのは、現在の非正規労働者が、待遇や社会保障の面などで正社員との間に大きな格差があり、安心して働ける環境にあるとはいえないことです。

 正社員とそうでない人との間で、どれだけ格差があるのでしょうか。

 厚生労働省の資料によれば、正社員の平均月収が約32万円なのに対し、非正規労働者の月収は約20万円。正社員の賃金が、年齢とともに右肩上がりのカーブを描くのに比べて、非正規労働者はほぼ一定のため、生涯の賃金格差は大きなものとなります。また、非正規労働者は教育訓練を受ける機会が少なく、正社員のほぼ半数となっています。さらに、働き方の差は、結婚に関しても大きな違いを生みます。30歳代後半の男性正社員の72%が結婚しているのに対し、同じ年代の男性非正規労働者の婚姻割合は34%。確かに、経済的に安定した状態でなければ結婚は考えにくいでしょうし、子供を持つことはなおさら難しいといえるでしょう。

 年金や医療保険の適用の点でも、正社員と非正規労働者との間では格差があります。給付が手厚いといわれる厚生年金や健康保険の適用を受けている人は、正社員ではほぼ100%なのに対し、非正規労働者で適用されているのはそれぞれ約半数となっています。「雇われて働いている」という点では、本来、正社員も非正規労働者も同じ種類の年金・医療保障があってよさそうですが、現実には、正社員と同じ給付を受けられない場合があるのです。これについて、少し説明をしたいと思います。


 まず、年金についてです。

 以前ご説明したように、国内に住む20歳以上60歳未満の人は、国民年金への加入が義務付けられており、定額の保険料を払って老後に定額の年金を受け取ります。自営業者らが加入するのは国民年金だけですが、正社員の場合は、国民年金に加えて厚生年金にも加入します。厚生年金の保険料は給料に比例して納め、年金給付も給料に応じて納めた保険料に比例します。そのため、老後に受け取る年金は厚みを増します。

 一方、パートなどの非正規で働いている場合、現行制度では、働いている時間や日数が、正社員のおおむね4分の3以上あれば、厚生年金に加入できます。それより少ない場合は、国民年金に加入します。しかし、こうした仕組みは、同じように雇われて働いている正社員と格差があるということ以外にも、様々な問題があります。

 その一つが、これだけ非正規で働く人が増え、非正規労働者の老後保障を真剣に考えなければならなくなったのに対し、制度が追いついていないという点です。かつて、パートやアルバイトで働く人は、正社員の夫を持つ妻が大半でした。その場合、夫の厚生年金が老後の生活の柱となりました。しかし、今では男女を問わず、家計を支える人が非正規労働者というケースが増えており、そうした人たちの老後保障を支えるには、国民年金だけでは十分ではないという現実があります。

 また、「4分の3」ルールは、法律で定められたものではなく、役所が「内かん」という形で1980年に運用の基準を示したもので、その根拠に現在でも十分な合理性があるかといえば、疑問がある点です。

 さらに、4分の3以上働いていて、厚生年金の加入資格があるにもかかわらず、勤め先の会社の都合で、厚生年金に加入できない人もいます。会社は、社員を厚生年金に加入させる際には、保険料を半分負担しなければなりません。負担増を嫌がる会社が、違法にもかかわらず、社員を厚生年金に加入させない実態があるのです。

 厚生年金に加入できない場合、非正規労働者は国民年金に加入することになります。しかし、国民年金の保険料は定額のため、低所得者にとっては保険料が割高になりがちです。その結果、保険料の未納が目立ち、将来受け取る年金額が低くなったり、場合によっては無年金になったりする恐れもあります。

 次回も引き続き、この問題について、見ていきたいと思います。

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inokuma

猪熊律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社社会保障部デスク。 1985年、読売新聞社に入社。地方部、生活情報部などを経て、2000年から社会保障部に在籍。1998~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞海外留学生として、米スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム「ジョン・エス・ナイト・フェローシップ」に留学。2009年、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(社会保障法)。好きな物:ワイン、映画、旅、歌など。著書に「社会保障のグランドデザイン~記者の眼でとらえた『生活保障』構築への新たな視点」(中央法規)など。

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