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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

喪失と悔恨に悩まされる方へ

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 皆さんはどんな大切な方を亡くされましたか?

 配偶者の方、父母、お子さん、兄弟姉妹、恩師、親友、恋人、長い時間をともにした人。

 大切な方を亡くすというのは人生の危機の一つです。

 今、皆さんは弱っていらっしゃるかもしれません。時間が過ぎても、感情が鈍麻し、時に名状しがたい悲しみに襲われる。あの人とはもう二度と会えないのだという重さがずっしりとのしかかってくる。ふとした瞬間に失った人のことを思い出したりもします。

 気持ちが少し弱っていると、誰かのささいなひと言に傷つくかもしれません。

 「若かったね」「大往生だったじゃない」「苦しまなかったら良かったじゃない」「頑張って生きていかなくちゃね」「早く忘れるしかないよ」「時が癒やすよ」

 自分のことを思って、あるいは定型化した儀礼として言っているのだろうとわかっているけれども、それでも傷つく。「あなたに何がわかるの?」どす黒い感情が噴煙を立てようとするのを、かろうじてのみ込む。「ありがとう」振り払うように伝え、その場を去る。

体験した者しかわからない苦しみ

 世の中には体験した者しかわからない苦しみがありますが、大切な方を亡くすというのもその一つ。その最期の受けとめ方は人の数ほど違いますから、ある死を知っている方が「私の喪失」を知っているとは限らない、それを感じる時、人は孤独をかみしめるのです。

 怒りがわくことがあります。それは自分に対しての怒りだったり、終末期にあまり優しくない言葉をかけた医療者への怒りだったりします。

 「どうして私は、こうしてあげられなかったのか」「どうしてあの医療者は、こういう態度や言葉を選んだのか」

 何年たっても苦しんでいる方たちがたくさんいます。

 医療不信の本をとても熱心に応援している方たちがネットで書いている言葉を見ると、自らが大切な方を失うのに直面した時の医療者との気持ちのすれ違いから医療不信を強めたことが見て取れます。

 医療不信がなくても、悩みます。

 「あの時、先生に『もうちょっとできることはありませんか?』と聞いておけばよかった」「むくみがひどいから先生に点滴を減らしてくださいと言ったことが父の命を縮めたのではないか」

 「あの時、胃ろうはたぶん本人は望んでいないと伝えたことが間違いだったのでは」

 悩みは尽きないのです。

愛しているから悩み、大切に思うから悔やむ

 私はこう思います。

 「愛しているから悩んだのだ」と。

 私は大切な方を亡くして悩んでいる方に、自信を持ってもらいたいのです。

 実際、悔いが100%残らないことなど、見守る側にはありません。

 見送る方を大切に思っているからこそ、その悩みは大きくなり、実際に失った後も何かしら悔いが残るのです。

 誰もが悩みます。

 そしてそれは私たち医療者からみて、たぶんこれが最良だったのではないかと思っても、それでも「もっとできることがあったのではないか」「私が悪かったのではないか」と悩むものなのです。

 だから悩み、生前も皆で意見がぶつかり合い、気持ちがすれ違ったとしても、それをなるべく悔いないであげてください。誰もがそうなのです。

 大切な方を亡くした苦しみは何年たってもなかなか癒えないかもしれません。

 けれども皆さんがもし逝った側であったならば、何年もそうやって悩んでいる皆さんに、「もう悩まないで」と声をかけるのではないでしょうか? 

 心のなかにいる大切な方は、皆さんがいつか笑顔になることを願っていると思います。その時、きっと大切な方もまた心から笑ってくれるのではないでしょうか。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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