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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

妊婦には何でも禁止した方が無難?

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最近は、おむつを自分で持ち歩きたがる娘

 娘は2歳になって、かなりお話をするようになってきました。自分が便をして、おむつを替えた後には、必ずいつも一緒のファミちゃん(ファミリアのクマのぬいぐるみ)の股をおしりふきでぬぐって、「くまさん、うんこたくさんでた~」と言っています。大量におしりふきを取り出すのはやめてほしいのですが、こっそり中に戻して娘を拭くのに使っています。



 さて、先日このような報道がありました。

温泉禁忌症から「妊娠」規定を削除…環境省方針

 環境省は、温泉法で掲示が義務づけられている注意書きや効能の内容を32年ぶりに見直し、妊娠中は温泉の入浴を避けるべきだとした従来の規定を削除する方針を決めた。

 温泉法は、温泉施設内の見やすい場所に、温泉の成分や、健康上の問題などから入浴を避けるべき症状(禁忌症)、入浴や飲用上の注意書きを掲示するよう定めている。

 現在の掲載内容は1982年に定められ、禁忌症にはがんや重い心臓病とともに妊娠が盛り込まれた。しかし、医師などの専門家から「医学的な根拠に欠ける」との指摘があり、同省は見直しを検討してきた。

 同省は24日に新たな掲示基準案を公表し、2月7日までの一般からの意見公募(パブリックコメント)を経て、正式に決定する。同省は「温泉成分によって床が滑りやすい施設もあり、妊婦には危ないと判断されていたようだ」と話している。

(2014年1月25日 読売新聞)


自転車・髪染め・旅行…妊婦がしてもいいの?

 妊婦の温泉入浴を禁じていたものの、十分な根拠がないため、取り消すという報道です。これを聞いた私の周辺の産婦人科医たちの反応は「禁止されているとは知らなかった」「温泉に行っていいか妊婦に聞かれてもOKしていた」というもので、私自身、妊娠中に伊豆と箱根の温泉に行きました。泉質の問題ではなく、妊婦が床で滑って転んだら困るから禁止されていたのではないか、との報道も聞きましたが、滑って転びそうなところを全て「禁止」していたら雪国の妊婦は引っ越さないといけないのか、という議論になってしまいます。おそらく、妊婦には何でも禁止しておいた方が無難、という程度のものだったのではないでしょうか。

 温泉だけでなく、「妊婦が○○してもいいの?」というものはたくさんあります。自転車、髪染め、長距離移動など、例をあげればキリがありません。医師の立場からすれば、「大丈夫ですよ」と言うにはそれなりの勇気がいります。妊娠出産は何が起こるか分かりませんし、そのほとんどは予測ができないものです。旅行をOKして、旅先でたまたま何も起こらないとは限りませんが、結果的に何かが起こった場合、「先生が大丈夫って、そう言いましたよね?」と恨まれてしまいます。これは非常につらいものなので、何でも「心配ならやめておいてください」と説明されてしまうというのが実情です。これはちょうど、赤ちゃんに病気があった時に「おなかの中にいる時は何も言われなかったのに」「前回の超音波検査では何もないって言ってたのに」と言われるのを避けたいために、ちょっとでも超音波で気になる所見があれば大げさに説明し、妊婦や家族を必要以上に不安に陥れている例があるのと同じ構造です。

「念のため」で不必要な制限も問題

 あるマタニティ雑誌のアンケートによれば、妊娠中に「切迫早産」と医師に言われた妊婦は4割にのぼるとありました。しかし、実際に早産に至るのは妊娠全体の5%です。結果として早産になる人の8倍もの人が、切迫早産と言われて入院治療や自宅安静をしている計算になります。もちろん、そういった治療のおかげで早産に至らずにすんだ、という例があることは否定しませんが、医療側の「念のため」という気持ちで、妊婦さんの行動を大きく制限していることは軽視してはいけないと思います。自宅安静と言われた妊婦さんと家族は不自由を強いられ、休職や退職に追いやられることだってあるのです。

 切迫流早産に限らず、私たち医療者は、患者さんの生活を大きく制限するようなことを指導することがあります。安静度だけでなく、カロリー制限や減塩など食事に関するものも、実際に指導された通りに生活するのはそんなに簡単ではありません。そういったことを想像しながら、それだけの根拠がある患者さんに指導することはもちろん必要ですが、その方が無難だからというだけで人の生活を制限してはいけないと私は考えます。そして、妊婦さんや家族も、妊娠とはいつ何が起こるか分からないものであり、トラブルを予測することは難しいという、不確実性を認識してほしいです。

 結果だけを見て「本当は予測もしくは予防できたのではないか」と責めることがなくならなければ、不必要に行動を制限されたり、過剰な医療が施されたりすることはなくならないだろうからです。

 医療者に限らず、身近な妊婦さんたちに挨拶代わりに「妊婦が○○してもいいの?」と言うのはやめてください。マラソンや本格的な登山、格闘技、スキューバダイビングなどはもちろん止めてほしいですが…。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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9件 のコメント

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妊娠と温泉

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トラブルを予測することは難しいという、不確実性を認識してほしいですその通りと共感です。1980年1月29日の毎日新聞に妊婦と温度についての記事、...

トラブルを予測することは難しいという、不確実性を認識してほしいです

その通りと共感です。1980年1月29日の毎日新聞に妊婦と温度についての記事、体温38度から40度で危険とあります。医学上の定説がしばしば変わるにしても、子宮へ流れ入る血流の温度がどう変化するのか難しい事柄でしょう。数日前のテレビでは女医さんが42度10分くらいまでにと仰っていました。また古くから指摘されていることですが、JR の座席の暖房はどうにかならないのでしょうか。

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切迫早産で二回入院してます

みう

三児の母、切迫早産で二回入院しています。 二人目は2ヵ月、三人目は1ヵ月。24時間点滴で、お風呂にも入れませんでした。とても辛かったですが、赤ち...

三児の母、
切迫早産で二回入院しています。

二人目は2ヵ月、三人目は1ヵ月。
24時間点滴で、お風呂にも入れませんでした。
とても辛かったですが、赤ちゃんも頑張っていると思い、自宅の家族と力を合わせて頑張りました。
結果的には帰宅後、正産期で産まれてます。

もしかしたら、先生も万が一に備えて、
入院を薦められ、私も自宅いても生産期で産まれたかもしれないですね。

ご家族の考えによりますが、
赤ちゃんを守り少しでもよい状態でこの世に送り出すため、少しでも不安やリスクを減らすため石橋を叩いて渡る、でもいいと思います。

長くても10ヵ月です。

産まれたら全て感謝にかわりました。


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日本の常識がいつも正しいわけではない

えむ

日本、アメリカ、オーストラリアでの出産経験を持つ50代です。出産、子育てに関する常識は、時代や国によって全く違うものだということを、身を以て体験...

日本、アメリカ、オーストラリアでの出産経験を持つ50代です。
出産、子育てに関する常識は、時代や国によって全く違うものだということを、身を以て体験しました。
日本では出産に関する制限が多すぎるように感じました。
小さいことはきりがないほどあるのですが、私がもっともびっくりしたエピソードを二つ紹介します。

1)25年前のオーストラリアで、出産前からしていたことなら何も制限する必要はないと言われました。
乗馬ですら妊娠前からしていたならやめなくていいと。
私はその時第一子を妊娠したばかりで、少し出血もしていたので安静にしなくていいのかと聞いた時に医者にそう言われたのです。
妊娠初期の流産は受精卵の問題なので、安静にしていても救えないとのことでした。

2)20年前のアメリカで、日本では妊婦は海で泳いではいけないと言われていると医者に言うと、「なぜ日本の医者がそう言うのか、医学的に全く理解できない」と驚かれました。
今では日本でもマタニティスイミングがありますが、当時の日本では妊婦が泳ぐ、ましてや海で泳ぐなんてタブー中のタブーでした。

その他にも日本で当たり前に行われていることが、全く違っていたことが山のようにありましたよ。

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