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石井苗子の健康術

yomiDr.記事アーカイブ

ピンチをプラスに変えるリラックス法

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(突然起こるハプニングで、自分の心身の状態を知ることができる)

 天災のように、個人の日頃と無関係なハプニングも含め、多くのハプニングは「避けられない出来事」として受け止められています。ハプニングはまた、自分がその時どういう行動や心理的状態になるかを知るよい機会でもあります。

 2011年3月11日の東日本大震災の時、私の隣にいた30代の男性は2度目の地震が来たときは動けなくなってしまいました。当時オフィスの10階にいたのですが、激しい揺れのせいで、まるで生き物のように本棚の本が飛び出して鉄砲弾のように人に当たる現象を見てその男性は腰が抜けてしまったようでした。反対に私は咄嗟とっさに本棚に向かって走り出して倒れないように押さえていました。あとから「石井さん、まるで熊みたいに本棚の前に仁王立ちして押さえてた」と言われました。

 このように、非常時の際に自分がどんな行動に出るか、どんな心理状態に陥るかは日常生活の中では、なかなか測れないものです。天災を経験することはさすがに人生で何度もないでしょうが、交通事故に遭遇したり、仕事場で起きたりするハプニング体験はよくあります。

 役者の業界では、自分や相手がセリフを忘れるというハプニングがありますが、それにおびえていたら仕事が出来ません。鈍感に構えて、「やってみなければわからん」という度胸が必要になってきます。どんな上手な役者でも完璧ということはありません。ちょうどオリンピック選手が本番で初心者のようなミスをするハプニングと同じように、舞台でセリフが記憶から飛び、頭が真っ白になってしまうことがあります。何回も自己練習してリハーサルの時は何も問題なかったのにです。咄嗟にとんでもないセリフが飛び出してくることもある。だから出番前は全員が緊張しており、とくに若手の役者たちは各々がリラックス方法を考えています。中には笑い上戸になってしまうほどテンションが上がる人もいます。でも、そういう人と楽屋が一緒だったから芝居が出来なかったというのは言い訳にならない業界です。それぞれのリラックス方法なのですから。

 ところが、思わぬハプニングが全員をリラックスさせた出来事がありました。

 先週の舞台初日の幕開きで照明がつかなかったのです。照明、音声、舞台セット、舞台裏はすべてその道のプロの人たちがやっていますから、我々はハプニングはないものと勝手に決めつけてスタンバイしています。舞台に明かりが差してこないと客席がザワザワッとなってきます。こうしたハプニングの場合に仕切るのが「舞台監督」の仕事です。咄嗟に全体にむかって安心してよいという説明をするのも大変な仕事です。原因をただちに究明して発表しなければなりません。ぐずぐずしているとパニックになっていきます。幸いにしてすぐに復旧しました、その間何分何秒という短い時間でも人間の心理状態の変化は様々で、その短い体験がその後の生活に影響するという人がいないとも限りません。

 最初からは舞台にいなくてもいい役者たちは、楽屋でモニターをにらみながら自分の出番を見計らっているのですが、当然ながら「どうした!」と騒ぎだす人や、ジッとしている人、自分が行ってなんとかするべきなのではないかとソワソワする人など、様々な態度が見られました。私は不思議と落ち着いていましたが、隣にいた役者さんが言った言葉が印象に残りました。

スタジオに住みついた幽霊「マチ子」役を演じた石井苗子

 「おれ、こういうのって意外にリラックス方法になるんだよね。ミスしてくれるとホッとするんだよ。ああ、僕らだけじゃないんだってね」

 そうか~と思いました。何もかもそろっているんだから、あとはアナタがやるだけ、プラス客席に感動を与える責任もアナタにあるんだからね、と言われるプレッシャーというのが役者にはあるんだと気がつきました。時には無関係なハプニングがリラックスにつながるということもある。

 気を取り直して始まった舞台は、全員のチームワークが良くなったようです。役者たちが「ここから踏ん張るのはこちらだ」と無言で言っているような感じがしました。余談ですが、私は幽霊役で、セリフの中に「スタジオの機材が故障するのは幽霊の念力が強すぎるからだ」というのがあり、実際に今いる劇場内で起きたハプニングを経験しながら、もしかしたら自分がなにかやっているんじゃないかという幻想に浸っておりました。

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石井苗子さん顔87

石井苗子(いしい・みつこ)

誕生日: 1954年2月25日

出身地: 東京都

職業:女優・ヘルスケアカウンセラー

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3件 のコメント

日本人の悔し涙に思う.

アセチルコリン

 試合後のインタビューで日本人選手が涙を流し試合を振り返っているシーンが映る.一方,外国人は涙はあってもよくよく画面を注視してわかる程度のもので...

 試合後のインタビューで日本人選手が涙を流し試合を振り返っているシーンが映る.一方,外国人は涙はあってもよくよく画面を注視してわかる程度のものである.例えば柔道で敗戦し終えた際,外国人は勝者の腰かお尻を軽く叩き,次へのエールを送っているようにさえ思える.自身の能力を出し切れなかった事への悔しさや,ふがいなさが涙という自然な反応として出る日本人.一方,敗戦であろうとも自身の能力を満足できたことへの充実感が勝敗よりも優り,次への目標として捉えられているように映る他国の選手.
 近年は日本人も世界の舞台で活躍し認められることが増えていることをみると,興奮作用の段階を熟知しているアスリートのレベルになったように思える.
 慌てたり,或いはパニックで自身を見失ったりすることは滅多にないことかもしれないが,時には経験することである.シュミレーションで対応のトレーニングをすることはあるが,果たして現実で冷静な行動や指示ができるかは未知なことである.
 農耕民族である日本人には,皆で合議したことには従順であるものの,独断で指示されたことには即座に対応出来にくいために,結果的に事態を悪化あせてしまう事さえある.
 自分に与えられた責任範囲にのみ完璧な努力を遂行すればよいのに,ついつい,他の部門の様子が気にかかるのか,持ち場にじっとしていられない.そして,失態を演じ涙する・・個人よりも集団行動を乱さないことを教育された結果が,多くの判断能力にマイナスになっている.
 3.11の地震発生直後,自衛隊ヘリが津波を確認し内容を報告している画像があった.しかし,責務は先回りしてでも住民に危険性を伝えることだったのである.被災地に映らぬ映像よりも,非難誘導を各社ヘリがすべきだったと感じている.緊急な事態での最良な行動は自身が決断すること!と,肝に命じている.
 

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何があっても驚かない、と自分に言い聞かせ

めざめたじいさん

中学3年生の時、「賑やかなときほど寂しさを感じる」という友がいた。いま考えると、周囲の喧噪の中で自分を見失うことなく物事を客観的に見ることの出来...

中学3年生の時、「賑やかなときほど寂しさを感じる」という友がいた。いま考えると、周囲の喧噪の中で自分を見失うことなく物事を客観的に見ることの出来る人だったのだろう。見習うべきことだとときどき思い出すのです。
家内が大病したので、覚悟はしている。その時のために墓も写真も、子ども達に家の財産も教えたし、保険証の置き場所、金庫の開け方、誰に知らせるか順番を付けて、仏壇の引き出しに忍ばせてある。

家に一緒にいるとき、いつも相手の動きをそれとなく気にしている自分がいる。「どんなことが起ころうと、驚くな」と、言い続けています。家内も同様らしく、長風呂をすると脱衣所からこちらの動きに聞き耳を立てている。

その時、私も家内も何も出来なだろう。せいぜい息子に知らせることだけはする。後は人任せ、中心人物以外の預金通帳からなにがしかのお金を引き出し、関係者が何とかしてくれるのを待つ。相棒は椅子に座り「長いこと世話になったな、静かにおやすみ。もう苦しまなくていいのだよ。何も心配要らない。西方浄土で待っていて欲しい」と、手を握り消えゆく命の証が静まっていくのを感じているだろう。

さだまさしが歌う、♪涙のひとしずくでも流せ 俺がいい人生だったと言うから・・・

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非常時に人が取る3つの行動パターン

SweetHeart

イギリスの心理学者ジョン リーチ氏の研究によると、運悪く不意の災害に見舞われた時、人の取る行動は三つのカテゴリーに分かれるそうです。落ち着いて行...

イギリスの心理学者ジョン リーチ氏の研究によると、運悪く不意の災害に見舞われた時、人の取る行動は三つのカテゴリーに分かれるそうです。

落ち着いて行動できる人は10-15パーセント、我を失って泣き叫ぶ人は15パーセント以下、残りの大多数は、ショック状態に陥り呆然として何もできない状態になってしまうのだそうです。

非常時によって、人が三つのカテゴリーの、どちらに入るかは、非常時でない普段のその人の行動からは予測できないということで、それでは、本能を打ち消して冷静な行動を取れるようにするには、どうしたらいいのか?それは、普段から非常時のための心の地図を描いておくことだそうです。

911で2700人余りのモーガンスタンレーの重役で社員の命を救ったリック・レスコラ氏は元ベトナム兵士であり、常日頃、一番近くにある非常階段の場所をチェックし、社員たちに3ヶ月に1度避難訓練をさせていました。彼はワールドトレードセンターに飛行機が突っ込んですぐに、メガフォンを手に社員たちを誘導し、最後はまだ生存者がいないか確認に戻って命を失いました。

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