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[大杉漣さん]格好悪くてもゴール狙う

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「応援する徳島ヴォルティスがJ1に昇格し、ワールドカップも楽しみ。今年は寝不足になりそう」(東京都内で)=藤原健撮影

 サッカーボールを、軽やかに足の甲で蹴り、胸でトラップする。巧みにボールを操るその人は、大杉漣さん(62)。

 青いユニホームの背中にはエースナンバー「10」が刻まれる。「僕は、純粋にボールを蹴ることが好きでね。これからも足が動く限り蹴っていたい」

 自ら発起人となって作ったサッカーチーム「(いわし)クラブ」の主将を務める。40歳の頃、映画関係者が集まって発足したチームだが、今は様々な職種から集まる「サッカー好きなおじさんキッズ」約60人がメンバー。

 今も仕事の合間を縫って月1回ほどピッチに立つ。だが、体は正直。気持ちばかりが先走り、思うように動けないことも多くなった。「不動の10番と言われてきたが、文字通り、動けない10番になってしまっています」と苦笑する。

 50歳の頃、ピッチで走る自分の姿を映像で見てがくぜんとしたことがある。「スローモーションかと思ったら違った。ウソだろっと思いました」。イメージしていたプレーとのギャップが大きすぎた。でも同時に「みっともないのも悪くない」といとおしさも感じた。「端から見ると滑稽で、すごく格好悪いかもしれない。けれど、これが僕のサッカー。体が衰えても衰えたなりに、身の丈にあった付き合い方をしていきたい」

◇         ◇         ◇

 俳優になって今年で40年。舞台や映画、テレビで変幻自在に演じてきた。多彩な顔を持つ名優だ。

 ただ、「なぜ自分は役者であろうとするのか、問い続けている」と打ち明ける。「いい俳優になりたいと思っています。でも、目指す俳優像がわからない。僕に何ができるのかを考え続けることが、仕事の一部なのかな」

 2人の子どもは独立。今は妻と愛犬、愛猫と日々を過ごす。だが、たまの休みにも活動的だ。一人で地方のJ2を観戦したり、ギターやブルースハープを手に1970年代のフォークをバンドで熱唱したりする。

◇         ◇         ◇

 年を重ねると、つい昔の思い出話をすることが多くなりがち。でも、「僕は『今はどうなんだ』ということを自分に問い続けていきたい」。サッカーもバンドも昔話にしたくない。今、実際に自分でやってみたり、生で見たりしたからこそ味わえる感動や興奮がそこにはある。

 「やりたいと思ったら、考える前にまずやっちゃえ」が信条だ。「サッカーもバンドも下手なんだけど、自分が出会って、気に入ったもの。だから、これからも長く付き合っていきたい」。55歳の時、「ピッチに立つ11人の選手であり続けたい」とたばこをやめた。1日80本吸うチェーンスモーカーから一変。体調にも気を配る。

 高校から始めたサッカーと人生の4分の3を共に歩んできた。「サッカーも俳優の仕事も、一人一人が役割を果たしてはじめてチームとして機能する。密接に関係していると感じます」

 もし生まれ変われたら、なりたいものがあるという。「役者ではなくて、ヨーロッパでプロのサッカー選手として活躍したい。笑われますけど、夢です」(上田詔子)

 おおすぎ・れん 俳優。1951年、徳島県生まれ。74年に劇団入団。北野武監督の「ソナチネ」で注目を集め、その後、数々の助演男優賞を受賞。ドラマ「緊急取調室」(テレビ朝日系)に出演中。映画「土竜(モグラ)の唄」は2月に公開予定。

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