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茂木健一郎のILOVE脳

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私の祖先はネアンデルタール?

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 この連載では、アメリカの遺伝子検査サービス、「23andMe」の結果について何回かにわたって書いてきたが、今回はとりあえずの最終回。自分の祖先がどこから来たか、というデータについて書きたい。

 私の祖父は、群馬の高崎から東京に出てきた、という話は以前から聞いていた。高崎周辺に親戚もいる。一方、母親は、九州の小倉出身である。子どもの頃から、夏休みなどには、よく母の実家に帰省していた。だから、私は、半分は北関東で、半分は九州の人間である。


母親のルーツに新事実が発覚

 ところが、それ以上の詳しいことはよくわからない。そもそも、親から聞いている話もいい加減かげんなもので、私の母はずっと小倉生まれなのだと思っていたら、2、3年前に、佐賀県に行っていた時に別の話が発覚した。母の旧姓は「牟田口むたぐち」というのだが、その話をしていたら、地元の人が、それはどうも佐賀に多い名前ではないかという。それで、その場で母に電話して確認したら、なんと、生まれたのは佐賀県の唐津市だという。小学校は佐賀市内で過ごし、それから小倉に行ったというのである。

 それで、私の母のルーツは、唐津だということが判明した。そういえば、子どもの頃、唐津の親戚に遊びにいくと、なんとはなしになつかしい気持ちがしたのを覚えている。もっとも、それは後付けの理屈であって、とにかく人間のルーツに関する話は、いい加減なものだ。


「私」の存在に悠久のロマン感じる

 ところが、DNAだと、さまざまなことがわかってしまう。「23andMe」は、ミトコンドリアのDNAのタイプによって、祖先が世界のどのあたりにいた人か、ある程度推測してしまうのだ。

 もともと、原生人類は、今から十数万年前に、アフリカで誕生したのではないかといわれている。「ミトコンドリア・イヴ」という、原生人類の共通の母系祖先の存在も議論されている。

図1

図2

 そこから、世界中に広がっていったわけで、その中で、ミトコンドリアの遺伝子のさまざまなタイプが出現してきた。

 「23andMe」によると、私の母方のミトコンドリアの遺伝子は、図1のような分布になっている。すなわち、母方のミトコンドリア遺伝子の型であるD4c1a1は、ユーラシア大陸から東南アジア、南北アメリカの広い範囲に分布していることがわかる。一方、父方のミトコンドリアの遺伝子は、図2のような分布になっている。すなわち、父方のミトコンドリアの遺伝子の型であるO3a3は、主に中国大陸から東南アジア、日本、そしてニュージーランドに分布している。

 これらの分布図は、もちろん、さまざまなデータから統計的に推測したものであり、不確実性を含んでいる。いずれにせよ、ミトコンドリアの遺伝子型から導かれるこのような「マップ」を見ることで、「私」という存在が、アフリカで誕生したといわれている原生人類の複雑で豊かなネットワークとつながっているのだという、悠久のロマンを実感できるように思う。

 もうひとつ、意外な検査結果が出た。なんと、私の遺伝子のうち、2.8%は、ネアンデルタール人由来だというのだ。

 私は、2.8%ネアンデルタール!

 その検査結果を見た瞬間は、自分がなんだかワイルドな存在になったように感じたが、よく見ると、何のことはない。2.8%の遺伝子がネアンデルタール人由来だというのは、アジア地域に住む人間の、平均値なのだという(図3)。私が、平均に比べて特にネアンデルタール比率が多いというわけではないわけである。

 みなさんは、知っていましたか? 自分の2.8%が、ネアンデルタールだということを!

 

宇宙の歴史の中でつながる「親戚」

 その他、遺伝子から見て、「23andMe」のユーザーのうち、この人たちは遠い親戚なのではないかというデータも示される仕組みになっている。遠い親戚に、メッセージも送ることができる。どなたも、知らない方ばかりである。遺伝子の検査結果を通して、自分が世界中の人たちとつながっているということを実感するのは、悪い気分ではなかった。

 もともと、宇宙の万物はつながっている。私たちの体をつくっている重い元素の一部は、現在の太陽系ができる前のサイクルの恒星が、超新星爆発をした際に生まれたともいわれている。宇宙の歴史の中で、私たちは皆つながっている。そんな究極の生命観へと、「23andMe」の検査結果は誘ってくれるように思う。

 今後、遺伝子の検査を受けることは、かなり一般化していくだろう。そのことによって、健康上のリスクや留意点がわかるのはもちろん、私たちの生命観、自己イメージも変わっていくのではないか。さまざまな議論がある遺伝子検査だが、すべての命がつながっているという認識が育まれることは、悪いことではないと思う。

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茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)
脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。

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