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石井苗子の健康術

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日本の名医が海外流出? 医学部受験の基準が変わる「2023年問題」

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(医学部を目指す子どもには、ほんの数年後の話です)

 今の日本の医療分野に「グローバルスタンダード・世界的標準」は存在していません。日本で医師国家資格を取得すれば、どこの医学部を卒業していても、医療分野のどこの科でも医師は選択できますし、国内で開業することができます。

 これが大きく変化します。

 2023年からは、地球上のすべての国の医学部の学生に対して、アメリカが決めたグローバルスタンダード教育規定に沿った医学教育を修了した者が医師としてアメリカで働くことを許可されるようになります。アメリカの話だから日本には関係ないだろうと思われるでしょうが、すでにアメリカは日本の医学部にもグローバルスタンダードに沿った教育改革を選択することを打診していると聞いています。もちろん拒否はできますが、これが将来の日本の医師育成にどう影響してくるかは大問題です。約10年先のことではありますが、医学部の6年間教育を考えるとすぐ目の前にある教育改革です。

 国民皆保険制度で暮らしている日本人は、全国一律の治療費で、どこでも誰でもいつでも受診できるのが当たり前だと思っています。そして日本の医学部を卒業している日本人医師に診てもらうことが普通だと思っています。だからこそ、遠く離れた都道府県から旅費を使って名医に診てもらうために東京に出て来ても治療費に差がないのだから価値があると考えるのです。

 すぐれた治療が全国同額で受けられる現実が、大学病院がいつも混んでいるという問題を作っています。この他にも医師の都市集中化問題を解決するため、地域に根差した「総合医」の育成を考案中ですが、なかなか軌道にのりません。個人が専門医を選択して受診する方がいいと考える傾向に歯止めがかからなかったり、総合医の教育が追いつかなかったり、若い医師が総合医に魅力を感じない傾向もあります。

 そこへアメリカが決めたグローバルスタンダード教育が入ってくるとなると、現場はより複雑になってくるでしょう。グローバル教育を受けて卒業した医師と、それ以前の教育を受けた医師という差が出てくるようになる。受診する側は、これまで通り安くて安心な治療を受けられる制度がずっと続くかどうか、将来が不安定になってきます。10年後には、日本語も話せる外国人の医師や、日本人で英語が堪能な医師が「保険外診療」の看板を出して治療を開始することも可能ですし、もし外国の治療費の方が高額であるなら、グローバルスタンダード教育を受けた学生が海外に流出していく傾向を止めることはできないでしょう。国民にしてみれば、よりよい治療を受けるためにはお金が必要ということになり、国民皆保険制度が崩壊するかもしれません。

 医療情勢が変わっていくのにつれて、国民ひとりひとりが自分の健康や治療の受け方について考えなければいけない時代になっていきます。どうせ日本でしか治療を受けないのだから関係ないだろうという考え方は、通用しなくなってきます。グローバルスタンダードの免許を持っているあらゆる国の医師が日本で開業できるようになり、逆に優秀な日本人の医師が海外に流出するようになった時、自分はどういう治療を選択するかです。政府は商品のように医師に関税をつけることはできないでしょうから、グローバルスタンダードの看板を出せる医師とそうでない医師が出てくることになり、俗にいう、腕がどう違うのかなどについては、ますます口コミ情報などが広がる社会になっていくかもしれません。

 いずれにしても、あと4~5年のうちに医学部のある大学は、カリキュラムを変えなければならないでしょう。これまで以上に医学英語などの授業を増やしていかなくてはなりません。ほとんどの国民が日本語を「標準語」として使うことに疑問を感じていない日本人にとっては、大きな変化をもたらすことになります。

 もともとアメリカの発想は、自国の中での医師の能力差を是正したかったのであって、他国に関しては制限を設ける必要がなかったはずですが、日本の医学部に対しても水準「スタンダード」を保つことをアメリカが要求してくるのなら、受験する子どもを持つ親がどこの大学を選ぶかに大きな差を作っていくことになるでしょう。先のこととはいいながら、ほんの数年後に医学部受験の基準が変わるということになるかもしれません。

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石井苗子さん顔87

石井苗子(いしい・みつこ)

誕生日: 1954年2月25日

出身地: 東京都

職業:女優・ヘルスケアカウンセラー

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3件 のコメント

アメリカへの医者移民

ヒロ

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アメリカの医学部のグローバルStandardは、アメリカの移民政策上での、一つの政策であると思う。アメリカは、毎年100万以上の移民を世界から受け入れている。その中には、アメリカ以外の国で英語で授業を受け医学部を卒業して、その後アメリカのUSMLEの医師免許試験を受けて、
生活レベルの高いアメリカで医師を目指す人も多いと聞く。その為に、設けられたStandardだと、考えられる。アフリカ、インド、中国、東欧、南アメリカと経済がグロウバル化する中で、
各国からアメリカを目指す若者も多い。その中で、アメリカはスタンダード医学部教育規定を
定めなければ、母国で医師免許を持った若者が、アメリカの医師免許試験を受うける資格を持つことになる。何も日本を狙ったものではない。だからと言って、日本の医学部もこの基準を無視は
出来ない。日本の医学部卒業者も、アメリカで研修医して経験を積みたい医者も多いと思う。
その為にも、このスタンダードは満たさなければ、ならないだろう。すでに日本の医学部5、6年生の見学実習だけのシステムだけでは、臨床実習とは言えないのではないでしょうか。

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医師の考える妥当な評価って何ですか

まつい

 正統な評価を受けられないなら、海外へ行っちゃうぞという話は、一昔前のメーカー経営者にもあった話ですが、医師は、国民にどんな評価を求めているので...

 正統な評価を受けられないなら、海外へ行っちゃうぞという話は、一昔前のメーカー経営者にもあった話ですが、医師は、国民にどんな評価を求めているのでしょうか。

 プロ野球は、そもそもその道で生活できる人が、とても少ないです。プロの入り口となる高校野球や社会人野球も含めた野球人口からすれば、大リーグに移籍できることが奇跡。さらに、そこで活躍し名を残すことができた人は、確率からすれば、とても職業として選択できないレベルです。

 プロ野球を引き合いにいえば、選手の引退は自らが決めるものではありません。望んでも、使えない選手が戦力外通告を受ける競争社会です。国民も大いに考えなければなりませんが、開業医を含めて、医師はその覚悟をお持ちでしょうか。

 皆保険の恩恵は、一方的に患者が享受しているように言われますが、医師がそれによって受ける恩恵は、議論に値しないほどわずかでしょうか。

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外国人参政権と同じことなのだ.

キド

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 裕福層が高度の医療を受けられ,そうでない下級層はごく一般のスタンダードな医療になる.資本主義のルールからすれば蓄えた財産を自身の医療に使うことは間違ってはいない.では,日本はどうなのか?国民皆保険の功罪(?)によりどの階層も平均的な医療が保障されている.そして,社会保障費は今や天文学的な財政難に嵌り込んでいる.日本の医療は資本主義と社会主義が混在しているかのように国からの規制や緩和で縛られてしまっている.
 グローバルといえば聞こえは良いが,それほどこの世界は平和でもないことは言うまでもない.医学だけがグローバルに仮に進路をかえてみたところで,宗教も違えば,生命に対する哲学も異なるなか,いかがなものかなという危惧をを感じる.
 ただ,医師の立場からすれば,責任を果たすべく自己犠牲の精神とその実行力にはもっと国民からの理解があってよいと思う.紙面を賑わす事件は氷山の極一部であり,多くの医師は手術成功率100%を目標にしている筈である.三割バッターとの比較は正しくないにせよ,その倍の六割成功率では全く話にならない業界なのである.妥当な評価がなさなければ当然自身は海外へと拠点を展開することは,プロ野球の例をみても当たり前なのである.
 グローバルの前に,自身の国で活躍できる医師の処遇を再考しなければならない.世界一の長寿国に君臨している事実.今後はその質を高めることではなかろうか.

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