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[シカゴから]「がんもどき論」の誤り

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 最近、私の恩師である大阪大学名誉教授・神前(こうさき)五郎先生が、某週刊誌上で「がんもどき」論の近藤誠医師と対談(対決)したことを知りました。「白い巨塔」の主人公である財前五郎と名前が似ているため、当時からモデルではないかと(うわさ)されていましたが、財前五郎の人物像とはまったく異なる学究肌の高潔な人物です。

 私も科学的根拠に欠ける「がんもどき」論を批判してきました。しかし、百歳にならんとする大先生がこのような議論に巻き込まれ、「白い巨塔」とつなげて面白おかしく取り上げられたことに、弟子の一人として憤りを覚えました。また、日本という国における医学の不健全さを感ぜずにはいられません。国の代表機関や学会組織が、健康被害につながるような間違った言い分を長年にわたって放置していいのでしょうか?

 遺伝子は生まれてから死ぬまで不変ではなく、個々の細胞では時々刻々、変化(変異)が起きています。それがあるレベルに達した時点で、がん細胞が生まれます。がんの発生率が高齢になるほど高くなるのは、遺伝子の変異が年齢とともに蓄積するためです。

 がんが遺伝子の異常で起こることは、科学の世界の常識です。がん細胞の遺伝子は常に変化していることも常識です。がんでない大腸のポリープも、放置すればがんが生じます。「がんもどき」のまま、じっとおとなしくしているわけではありません。

 今から30年以上も前に「中村君、これからのがん研究には遺伝子研究が欠かせないんだよ」と言い、私に遺伝子研究をする機会を与えてくれたのが神前先生です。病床にありながら、一人の学者として近藤氏に論戦を挑み、科学的な間違いを問いただした恩師の姿に、ただただ頭が下がる思いです。(シカゴ大教授 中村祐輔)


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