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[小野塚秋良さん]古里の子どもに夢を

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「ネージュはフランス語で雪。羽はあるけど、飛べなくて、葉っぱにのって風とともにふらふらっとやってきます」(東京都内で)=関口寛人撮影

 1年ほど前、生まれ故郷の新潟県十日町市から依頼され、市内の自然の美しさを紹介する小さな写真集を制作した。

 軒下に連なるつらら。ヒマワリとカマキリ――。故郷の日常風景を撮影した写真の一枚一枚に、自身がデザインした市のキャラクター「ネージュ」を描き込んだ。背中に羽が付いた雪の妖精ネージュは、雪原の上に寝ころび、つららにぶら下がって遊ぶ。

 「ネージュは私の分身。地元を離れたからこそ気付いた魅力を、ファンタジーで伝えようと考えました」

 冬の間に3、4メートル積もる雪も、春になるとあっという間に消え、米作りのための恵みの水となる。「厳しくも豊かな自然や、そんな環境を受け入れてきた人々のおおらかさを写真集を通じて感じてもらえれば」と話す。写真集は全国各地の図書館に贈られた。

◇         ◇          ◇

 生家は上杉謙信の隠し湯とも伝わる同市・松之山温泉の旅館。洋裁学校に通っていた姉の影響もあり、高校卒業後、ファッションの世界に飛び込んだ。

 ブランド「ズッカ」のデザイナーとして、ファッションの都パリで新作を発表してきた。新しいものを追い求め、目まぐるしく変わる世界に身を置いてきたが、60歳を迎えた3年前、「猛スピードで走る生活に区切りをつけたい」とブランドのデザイナーを引退。今は東京の自宅や静岡県の別荘でゆったりと過ごす。

 パリで活躍していたころは顧みることもなかったが、最近は、十日町市内の集会に招かれて講演するなど、故郷との接点も増えた。

 母校の小学校が今年3月、児童減少による統廃合で、139年の歴史に幕を下ろす。「のどかな棚田の風景や趣のある校舎、宿題を手伝ってくれた同級生のことを懐かしく思い出す。時間をかけて築かれたものがなくなるのは残念」と話す。

◇         ◇         ◇

 十日町市は、かつて麻織物「越後縮」の原料となる植物「カラムシ」の栽培が盛んだった。上杉謙信の財政を支えたといわれる。今も市内で栽培され、小学生がカラムシについて学ぶ。

 昨年12月、同市の小学生が、カラムシを題材にしたキャラクターを考え、ネージュを考案した自分にイラストや作文を送ってきた。一つ一つに感想を書いて今月、子どもたちに戻した。

 自分の感想を読んだ子どもたちが目を輝かせていたと聞き、深い喜びを感じた。「これからは故郷の力になりたい」。子どもたちとのかかわりを通じて、素材としてのカラムシにも着目し出し、ファッションにいかせるか検討したいという。

 出身地は雪深く、華やかなファッション界とは縁遠い田舎。だが、豊かで美しい自然を今も残す古里だ。「パリコレを目指してデザイナーになった自分の半生を話すことが、子どもたちが夢をかなえる助けとなればうれしい」(谷本陽子)

 おのづか・あきら ファッションデザイナー。1950年、新潟県十日町市生まれ。三宅デザイン事務所を経て独立。ファッションブランド「ズッカ」を設立し、89年からパリで新作を発表。2011年にズッカのデザイナーを退任した。

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