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一緒に学ぼう 社会保障のABC

yomiDr.記事アーカイブ

国民皆保険・皆年金(21)問題点の続き

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 社会保障制度が揺らいでいる要因として、不安定化した雇用の存在が大きいことを、前回、ご紹介しました。日本の社会保障制度が社会保険方式を中心に成り立っていることを考えれば、みんなが働いて保険料を納められるような環境を整えることが何よりも重要といえます。

 また、社会保障制度が揺らいでいる別の要因として、よく挙げられるのが、少子化や高齢化の進行です。

 全人口に占める65歳以上の割合を「高齢化率」といい、高齢化率は、65歳以上の高齢者と、それ以外の若い世代の比率(バランス)によって変わっていきます。一般に、高齢化率が7%かそれ以上になった社会のことを「高齢化社会」、14%以上になった社会のことを「高齢社会」と呼びます。日本のように、少子化が進んで若い世代が減る一方、高齢者が長生きするようになった社会では、高齢化が急速に進行します。ちなみに、日本の現在の高齢化率は24%ですから、日本は「超」がついた高齢社会にあるといえます。このような社会においては、高齢化が社会保障制度に与える影響も大きいのです。

 年金制度を例にとって見てみましょう。

 日本の年金制度は、以前このコラムでもご紹介したように、20~59歳の全国民が保険料を納め、その納付状況に応じて、老後(基本的に65歳~)に年金を受け取ります。若い時に自分が納めた保険料は、積み立てておいて、老後に自分のために使うのではなく、同時代に生きるお年寄りの年金給付に使われます(これを「賦課ふか方式」と呼びます。つまり、自分が年を取った時に受け取る年金は、その時代の若い世代の保険料によって賄われるわけです。そうではなく、自分のために保険料を積み立てておくやり方は「積み立て方式」と呼ばれます)。 

 では、少子化や高齢化が進んで、年金給付に使われる保険料を納める若い世代が少なくなったら、どうなるのでしょうか。

 若い世代の人数が減ると保険料収入も減りますから、そのままでは、年金の給付水準を低くせざるを得ません。しかし、老後の生活を支える年金の水準を、それほど低くするわけにはいきません。年金の水準を引き下げないとすれば、若い世代1人あたりの保険料負担を今より重くする必要があります。

 「給付カット」、あるいは、「(保険料)負担の引き上げ」といった言葉から連想されるのは、年金制度への不安や不信感です。こうして見てくると、保険料を納める若い世代が減っていく少子化や、年金を給付される高齢者の割合が増えていく高齢化、また、高齢者の平均寿命が延びる長寿化は、制度を揺るがす一つの要因ともいえるのです。

 年金と違って、医療保険制度では、高齢者も、負担能力があると考えられる人は、保険料を納める仕組みになっています。しかし、負担能力のある高齢者の数はそれほど多くはありません。保険料負担の大部分を若い世代に負っていることを考えると、やはり、少子化や高齢化は制度に大きな影響を与えるのです。

 このほか、経済の低迷も、制度を揺るがす要因として挙げられます。景気がよくて、賃金が右肩上がりに上昇する時代なら、多少、若い世代が減って1人あたりの保険料負担が増えたとしても大きな問題にはなりませんが、賃金が伸びず、経済成長が見込めない時代には、個人や企業に負担が重くのしかかるからです。

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inokuma

猪熊律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社社会保障部デスク。 1985年、読売新聞社に入社。地方部、生活情報部などを経て、2000年から社会保障部に在籍。1998~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞海外留学生として、米スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム「ジョン・エス・ナイト・フェローシップ」に留学。2009年、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(社会保障法)。好きな物:ワイン、映画、旅、歌など。著書に「社会保障のグランドデザイン~記者の眼でとらえた『生活保障』構築への新たな視点」(中央法規)など。

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