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怒りをコントロールする研修 パワハラ、体罰防止狙い

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企業や学校で

「怒りで損をしないように」と、講座で強調する安藤さん(三井物産本社で)=横山就平撮影

 怒りをコントロールする力を養う研修を、企業や学校が取り入れ始めた。パワーハラスメント(パワハラ)や体罰、いじめを減らしたいとの思いが背景にある。

 「怒りを適切に配分できれば、人生は変わります」

 2013年冬、東京・大手町の総合商社「三井物産」本社の会議室。一般社団法人「日本アンガーマネジメント協会」(東京都)代表理事の安藤俊介さんは、身ぶりを交えてそう語りかけた。

 同社社員を対象にした研修で、20~50歳代の男女28人がメモをとりながら熱心に聞き入った。

 アンガーマネジメントとは、アンガー(怒り)をマネジメント(適切に配分)するという意味。「怒らなくてもよいことに、怒らない」「怒るとしても、怒りに任せず、表現方法や場所を選ぶ」といった考え方を学ぶ。米国では、企業や学校、プロスポーツの選手などが取り入れている。ストレスが強く、怒りをコントロールできないと社会的に大きなダメージを受けやすい経営者などに人気という。軽犯罪者を矯正するための教育に使われることもある。

 10年ほど前、仕事で訪れた米ニューヨークでこれを知った安藤さんが日本に持ち込み、研修などを通じて広めている。

 この日は、どのようなことに怒りを感じるか、アンケートで自らの傾向を診断。さらに6人ずつのグループに分かれ、「最近、頭に来たことは何か」「どのように叱ったらよいか」などを討論した。

 三井物産がこの研修を取り入れたのは昨年から。研修を担当する中江(しん)さん(40)によると、日本の企業では、上司が部下を発奮させるための一種のカンフル剤として、怒りが使われてきた。部下も当然のようにそれに応えてきた。

 しかし、近年、子供の頃から、叱られる経験の乏しい若手社員が増加。これまでなら通用した上司の強い指導が、パワハラととらえられるケースもあるという。同社でも、「これまでのやり方で部下がついてこない」と悩む管理職も増えた。そこで目をつけたのがアンガーマネジメントだった。中江さんは「価値観は多様化しており、叱るだけでは組織はうまく回らない。上司と部下のよい関係作りに役立てば」と期待する。

 参加者の一人、相原善幸さん(47)は関連会社で部長職を務める。多くの部下を抱えており、「今後、生かせそうな気付きがたくさんあった」と話した。

 アンガーマネジメントを取り入れた学校もある。茨城県土浦市立都和(つわ)中学校では昨年、教師と生徒それぞれに向けた研修を、同協会に依頼した。企画した齋藤浩一校長は「体罰やいじめを防ぐには感情のコントロールが重要。教師、生徒全員がノウハウを身に着けてほしい」と話す。

 約400人の全校生徒を対象に行われた研修では、「怒る時は自分と他人を傷付けず、モノを壊さない」など、具体的な指導を受けた。

 安藤さんは「怒りは自然な感情でそのものが悪いわけではない。怒っても構わないが、怒りで損をすることがないようにコントロールする方法を、大人も子供も学んでほしい」と話す。(加納昭彦)

腹が立った時の主なアンガーマネジメント

 ・何も言い返さずに、6秒間じっとして怒りをやり過ごす

 ・自分で変えられることか、変えられないことかを見分ける。変えられるなら変える努力をし、変えられないなら受け入れる

 ・「大したことはない」など、心を落ち着かせる言葉を自分にかける

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