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医療部発

医療・健康・介護のコラム

怪しげな「再生医療」が一掃されることを願う

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 「新しい規制ができるそうですが、本当に、患者の弱みにつけ込むようなことはなくなるのでしょうか」


 兵庫県の女性(69)は、疑いの目を向けます。この女性は昨年11月、脂肪にある脂肪幹細胞を使った「再生医療」を、有効性や副作用の十分な説明がないまま受け、精神的に大きな苦痛を受けたとして、東京都内のクリニックの主治医(当時)らを相手取り、慰謝料など約640万円を求める損害賠償訴訟を起こしました。原因不明の全身のしびれを治そうと受けた再生医療。「自分のような被害者を二度と出さないように」との思いから提訴しました。

 クリニック側の弁護士は「医師は説明を十分にした。この再生医療が全員に効果があるとは説明していない」などと言っています。この治療を受けたことが原因かどうか分かりませんが、この女性は、全身のしびれが悪化し、歩行器なしには移動することができません。

 実は、このような国の承認を得ず、医師の裁量権のもと、民間クリニックなどが自由診療で行う「再生医療」は国内で広く行われています。

 彼女が言及した「新しい規制」とは、今秋、施行される「再生医療安全性確保法」に基づく新制度のことです。この制度が実施されると、自由診療で行われている「再生医療」についても、厚生労働省が認めた委員会の審査を受け、厚労相に治療の計画を提出しなくてはならなくなるのです。

 新制度が実施されたら、効果不明の「再生医療」は一掃されるのでしょうか。この女性は「国に届け出ずに、こっそり行う医師が現れるかもしれません。そんな医師を、国はしっかり取り締まることができるのでしょうか」と疑問を投げかけます。日本で「再生医療」を受けられなくなったら、海外へ、という流れも出てくるのも心配です。既に、「再生医療」を受けるため中国などに渡った脊髄損傷や脳性まひの患者さんもいます。

 私は、高額な治療費を求められる自由診療による「再生医療」の実情を長く取材してきましたが、医師の「良心」を信じるだけでは、必ずしも良い医療は実現できないことを痛感させられました。もちろん、大多数の医師は患者のために寸暇を惜しんで治療にあたっているとは思いますが、そうではない医師もいるのです。やはり、安全性が確保されるシステムを作るしかありません。新しい規制が、その役割を担うのです。

 この新制度に魂を入れるべく、再生医療研究者や行政担当者らが現在も努力しています。冒頭の女性の心配が、杞憂きゆうに終わることを願ってやみません。

坂上博
1998年1月から医療部。主な取材対象は、心臓病、肺がん、臓器移植、高齢者と薬の付き合い方など。趣味は、朝鮮半島情勢の観察、韓国語の習得。


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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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1件 のコメント

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根掘り葉掘り尋ねたのでしょうか

ネズミ

【気の毒な患者さまへ】医師も人の子、(訴えの多さに気を取られ、)症状の見過ごしも在るやも知れず。患者は自分を知り、自分の為には納得の行くまで尋ね...

【気の毒な患者さまへ】
医師も人の子、
(訴えの多さに気を取られ、)
症状の見過ごしも在るやも知れず。

患者は自分を知り、自分の為には納得の行くまで尋ねる必要があると思う。

医学の世界もご多分にもれず、細分化されて、縦割りが跋扈。
腹中にメスを閉じ込めるミスは別として、医療事故を全部医師の責任に帰すのは???でしょう。
念のため書添えますが、ネズミは医師の関係者でも、それを特別視するものでもありません。

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