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[奥泉光さん]フルートとともに歩む

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「ある程度のレベルは維持しておきたい。練習しないと口周りの筋肉が衰え、どんどん吹けなくなってしまうんですよ」=三浦邦彦撮影

 愛用の銀製フルートをケースから取り出し、さっと口にあてる。体をリズミカルに揺らすと、流れるような音が響く。

 練習場所は、主に自宅の書斎だ。小説を書く合間、気分転換を兼ねて。毎日、最低でも20分、練習する。

 「自由自在に演奏したいんですが、技術がないとお話にならない。フルートも小説に似て、技術がないと自由になれないんです」。フルートの奥深さを、そう表現する。

 幼少の頃から、音楽が好き。中学3年の時、管楽器を演奏したくなり、フルートを親に買ってもらった。特別、好きな楽器ではなかったが、「手軽にできそうと思って」。高校で吹奏楽部に入り、3年間、練習に打ち込んだ。好きなジャンルは、ジャズだ。

 「鳥類学者のファンタジア」など、ジャズを題材にした作品も多い。創作への思いは、明快だ。「こういう小説があったら、みんなが驚くかどうか」

 40歳を過ぎ、再び、フルートにのめり込み始めた。東京の西荻窪の小さなジャズハウス。自作の小説を読む朗読会を行った後、知り合いのジャズミュージシャンと一緒に演奏したのがきっかけだった。すべて即興で音楽を作る。

 「相当緊張しますが、ジャズファンとして最高の気分」。以来、年に数回、プロやアマの音楽家とセッションを行う。小説の朗読会でフルートを演奏することもある。作家の山田詠美さんや島田雅彦さんをはじめ、たくさんの人と朗読会をやってきた。

 「せいぜい入って30人ぐらいの店で。結構、秘密会のような雰囲気ですよ」

 43、44歳の頃、いとうせいこうさんと「文芸漫談」を始めた。漫談終了後、いとうさんがスマートフォンを使って、ノイズのような音を出す。それに合わせて、フルートで即興演奏する。「人を楽しませるのが好き」。エンターテイナーとしての一面も見せる。

 長編小説を主に手がける。資料を読み込むなど、下調べにも時間がかかる。「長編は、一気に書けない。毎日ちょっとずつのペースで書く。とにかく体力のいる仕事」。体力の衰えもあり、以前ほど、夜、飲み歩くことはなくなった。適度に運動するなど、体調管理にも気を使う。

 2001年から教べんをとる近畿大学の定年は、66歳。定年まで勤めるかどうか分からないが、「小説と同様に、フルートなどの音楽活動にも、積極的に取り組んでいきたいですね」。

 第二の人生はフルートとともに歩んでいく。(岩浅憲史)

 おくいずみ・ひかる 作家。1956年、山形県生まれ。86年、文壇デビューを果たし、94年、「石の来歴」で芥川賞を受賞。2012年から、芥川賞選考委員を務める。「群像」1月号から、ジャズを題材にした小説「ビビビ・ビ・バップ」を連載。文芸漫談は31日にも開かれる。

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