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お産の漫画「コウノドリ」…社会の縮図 葛藤する医師

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診察で言葉を交わす荻田さん(大阪府泉佐野市のりんくう総合医療センターで)=浜井孝幸撮影

 「産婦人科医でジャズピアニスト」という異色の主人公が登場する漫画「コウノドリ」が男性コミック誌で連載され、話題を呼んでいる。

 妊産婦死亡や死産、夫の暴力に耐える妊婦……。小さな命を巡るドラマが青年読者層の心をつかんだのだという。物語に込められた思いとは。

 産科医・鴻鳥(こうのとり)サクラのいる病院に交通事故に遭った妊婦が搬送されてきた。頭を打ち、危険な状態。サクラは夫に選択を迫る。

 「この出産は奥さんの命にかかわる。どちらの命を優先させるのか決めていただきたいんです」

 女性は産み、息を引き取った。1か月健診の日。夫は子を抱きながら誓った。

 「生まれてきて良かったと思う子に育てたい」

 漫画は、難しいお産に直面した男女が悩みながら答えを見いだす過程を描く。国内では出産時に年間約50人の母親が死亡し、子もその前後に約4000人が亡くなる。一方で、水際で救われている命も多い。物語では、その光と影に焦点を当てている。

 なぜ男性向けの雑誌で「お産」だったのか。きっかけは作者の鈴ノ木ユウさん(40)と、里帰り出産した妻を担当した産科医、荻田和秀さん(47)との出会いにあった。腕利きのジャズピアノ奏者でもある荻田さんのユニークな肩書に着想を得たのだという。

 鈴ノ木さんは複数の医師に取材し、衝撃を受けた。産み捨て、飛び込み出産、妊娠を知り逃げ出す男性……。どれも信じがたかった。「お産の時に起きていることは意外と知られていない。ちゃんと伝えなくては」。思いを駆り立てられた。

12月20日に発売された単行本「コウノドリ」第3巻の表紙。

 荻田さんは年に1000件のお産を扱う大阪府泉佐野市の「りんくう総合医療センター」で産婦人科部長を務める。重症例の受け入れも多く、物語は荻田さんの日常に重なる。「出産は二つの命をかけた闘い。お産への関心と妊婦をいたわる気持ちが読者に芽生えてくれたら」と願う。

 胎児を慈しむ親、宿った命に無関心な親――。産科医が触れる「命の価値観」は様々だ。現実には妊娠中の喫煙、無計画な妊娠・中絶を繰り返すなど、無責任な親は珍しくない。社会的孤立や貧困が状況を悪化させ、産後、児童虐待死に至ってしまうこともある。

 子は親を選べない。だからこそ荻田さんは「産科医はおなかの赤ちゃんの代理人」との意識が強い。お産の現場で垣間見える社会の縮図。そこで産科医は何ができるのか。葛藤とともに向き合っている。

 物語の中で、サクラが訴えかける言葉がある。

 「出産は病気じゃないから皆、安全だと思い込んでいるけど、ボクらは毎日、奇跡のすぐそばにいる」

 それは、鈴ノ木さんと荻田さんが共有する思いだ。

 11月の夜。ライブハウスで演奏する荻田さんの姿があった。アンコールで選んだのは、スティービー・ワンダーの名曲「可愛(かわい)いアイシャ」。娘の誕生を喜ぶ父親の心をつづった曲だ。

 「“できちゃった婚”が増えて、心構えのないまま親になる人も多い時代。サクラの言葉が、そんな人たちの心に届けばいい」

 母子の幸せを願う“コウノドリ”が奏でるピアノは、軽快で優しさに満ちた音色だった。(佐々木栄)

漫画「コウノドリ」
 講談社の週刊漫画雑誌「モーニング」で連載。2012年7月から短期で掲載したところ、「知らなかった」「もっと読みたい」など反響があり、今年2月から定期連載になった。鈴ノ木さんが複数の医師に取材し、医師が実際に向き合っている現実を丹念に描き出している。
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