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労働基準監督官 実情と課題…雇用環境、厳しくチェック

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人手不足 現場から悲鳴

「対応した相談者から『ありがとう』と言われた時、達成感を感じます」と語る竹中監督官(左)(千葉県船橋市の船橋労働基準監督署で)

 若者の使い捨てが疑われる「ブラック企業」など、雇用を巡るトラブルが後を絶たない中、労働基準監督官が働く人の味方としてテレビドラマなどで注目を集めている。監督官の仕事の現場で、その実情と課題を探った。

 「労基署の者です」。船橋労働基準監督署(千葉県船橋市)の竹中広治郎監督官(42)が11月、管内の事業所を立ち入り調査した。「残業中にタイムカードを押すよう強制され、きちんと残業代をもらっていない」。従業員からの相談を受けて実施したものだ。

 「お宅だけ調査しているわけではありませんが……」。けげんな表情の担当者と間合いをはかりつつ、質問は次第に核心に迫る。「どんな方法で労働時間を管理してますか」「タイムカードとパソコンの使用記録を見せて下さい」。資料を目で追いながら、相談者が語る“実情”と食い違いがないか、入念に調べていく。

 8人の監督官がいる同署では、こうした調査を2012年度は808事業所で実施した。監督官1人あたり約100件担当した計算だ。このうち8割で賃金未払いなどの違反が判明し、指導した。悪質な場合は検察庁に送検するが、昨年度は2件。大半は指導に従った。竹中さんは「逮捕や送検は最後の手段。法律を知ってもらい、是正まで導くのが我々の仕事。やりがいがある」と話す。

 監督官が注目を集める背景には、不安定な働き方が増えて雇用トラブルが多発する一方で、労働者の後ろ盾となる労働組合の機能が低下していることがある。労基署などにある全国の「総合労働相談コーナー」に寄せられた相談は5年連続で100万件を超えたが、労組の加入率は2割を下回り、加入者も正社員中心なのが実情だ。

 しかし、「労働者の味方」として監督官の役割が増す一方で、現場からは「人手が足りない」との悲鳴が上がっている。

 厚生労働省によると、12年度の監督官の定員は3181人。08年度より105人増えたが、監督官1人当たりの労働者数は約1万6400人で、国際労働機関(ILO)が目安とする「最大1万人」に対して配置数が大幅に不足している。ドイツの約5300人、英国の約1万800人と比べても極めて手薄だ。

 しかも、企業の手口は巧妙化し、調査は難しさを増している。労務問題の専門家である社会保険労務士の一部が、監督官の調査手法や対処法を企業に指南していることも一因とされる。「中には元監督官もいる。監督官の手の内が分かれば、未払い残業も見破られにくい」と、ある社労士は明かす。

 一方、監督官に対する不満も多いようだ。監督官の役割は、労働基準法違反などが疑われる場合に指導することで、「解雇が不当かどうかなどは基本的に民事上のトラブルにあたり、原則として不介入」(同省監督課)。こうしたケースには、都道府県労働局長による助言・指導などで解決を目指す「個別労働紛争解決制度」を紹介するなどしているが、「『役に立たない』と批判される」とある監督官は嘆く。

 監督官の業務を効果的に行うために必要な施策を、全国約1000人の監督官に聞いた調査では、「監督官の増員」(770人)「違反事業所の公表」(375人)「司法専門部署の新設」(320人)が上位に上がった。調査した全労働省労働組合の森崎巌・中央執行委員長は「高まるニーズに体制が追いついていない」と指摘する。だが、「公務員への風当たりは強く、増員は容易ではない」(同省幹部)のが現実だ。

 労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎・統括研究員は、「労基署だけで対応するには限界がある。労働者の意見を職場に反映させる仕組みや、紛争を解決する制度の充実も含めて、労働者を守る環境を整備する必要がある」と強調している。(大津和夫)

 労働基準監督官 労働条件の確保・向上や労働者の安全、健康確保を図るため、全国に321ある監督署に配置されている厚生労働省の専門職員。労働基準法に基づいて、立ち入り調査のほか、司法警察官として逮捕・送検する権限も持つ。

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